米に関しては、無農薬米の農家を、自遊人(里山十帖のオーナー会社)のスタッフをあげて応援している。米というものは、7cmの苗だと農薬なしでは害虫に負けてしまうが、10cmまで育てて田植えすれば、農薬なしで育つものなのだそうだ。
ただ、10cmになるとコンバインには装着できない。そこで、人力での田植えが必要になる。自遊人のスタッフ総出での人海戦術だ。里山十帖では、これをオープン以来8年続けている。その米は、宿での食事に使うのはもちろん、店やオンラインでも販売している。
米作りとともに生きてきた魚沼では、保存した米を発酵してさごはち(麹漬けの床)にもする。桑木野氏もそうした新潟の食文化を受け継ぎ、取り入れている。ほかにも、もみがらも燻製のチップに使用するなど、まさに余すところなく、感謝の念をもって米の恵みをいただいている。
ヨガを続け、長らくビーガンを食してきたこともある桑木野氏は、健康に人一倍敏感でもある。
「今は肉も魚も食べますが、7年間のビーガンを経て初めて食べたときには消化するのが大変でした。そうした経験から、人にはさまざまな食の体系があることも十分に理解しています。それも私の料理の根底にあるものの一つです」
里山十帖では、事前にオーダーすればビーガンやマクロビの対応も可能。日本の旅館ではまだ数少ない、世界に開かれた宿であるともいえる。桑木野氏の料理の根底には、そうした人への暖かい目線が感じられる。食の未来を明るいものにしていきたという考えも、人への優しさからきているに違いない。