虎から下りない指導者は中国国民の団結を生むか


さらに米国との緊張関係は、冷戦から「温戦」というべきレベルに移行している。米国は経済の締め付けにとどまらず、安全保障、政治・外交の分野にまで、本格的な制裁に入ろうとしているかのようである。

従来、経済優先で中国に接してきた西欧の雰囲気もかなり悪化してきた。一帯一路の行方も不透明だ。親中的で経済の結びつきを強めてきた中東欧諸国は、ロシアのウクライナ侵略を黙認している中国から急速に離れ始めている。中国からの資金援助でつながってきたアフリカなどの途上国は、債務の軛(くびき)にあえいでいる。対中債務がGDPの10%を超える国は42カ国に及ぶという。史上まれに見る発展を遂げたこの国は、あまりに急いで大きくなり過ぎ、世界の孤児になりかけているのだろうか。

党大会で習氏の1強ぶりが強くアピールされたが、それは中国人の日常生活にも浸透している。趙さんが声を落とす。「国営企業では毎日勉強会への参加を求められ、毎週試験が行われる。最近、習さんが何を話したか、その意義は何か、についての講義とテストですよ。落第したら大変なことになる」。大学でも信じがたい光景が見られるという。「教室は監視カメラで見張られている。教授が隙を見て、多少政府に辛口の話をすると学生がスマホで撮っている。授業が終わったら、学生たちに糾弾されるんです」。どこか見覚えがある。そう紅衛兵だ。

内憂外患に見舞われているとしか思えない中国である。深い経済関係にある日本としても心配だ。趙さんに「中国ヤバいよねえ?」と尋ねると、彼は急に語気を強めた。「まったく問題ない。わが国は米国と本気で対決する決意を固めた。米国のお陰で14億人が習さんを指導者として挙国一致だよ」。

そして昂然と言い放った。「鷲(米国)が舞い降りた瞬間、虎(中国)が襲いかかるんだ」

内憂があるほどに外圧に団結するのが近代中国だ。ふと国共合作を思い浮かべた。

川村雄介◎一般社団法人 グローカル政策研究所 代表理事。1953年、神奈川県生まれ。長崎大学経済学部教授、大和総研副理事長を経て、現職。東京大学工学部アドバイザリー・ボードを兼務。

文=川村雄介

この記事は 「Forbes JAPAN No.101 2023年1月号(2022/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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