──まちの保育園・こども園では、どんな保育を探究しているのでしょう?
僕らはよく「子育ては1/1」と言うんですが、一人ひとり違うという前提に立って、その時々での「距離感のデザイン」を大事にしています。賑やかな場で楽しみたい子もいれば、安全な場所で落ち着いて一人で過ごしたい子もいる。同じ空間で一人ひとりの特性やその時々の気持ちに寄り添いつつ、適切な距離を保っていけたら、と。
とはいえ、個別な配慮をするわけではなく、違いを大事にしながら、わけない。1/1の子どもたちが交わることの相乗効果で、自分ひとりでは思いつかない「みんなのアイデア」が生まれることもありますから。
──少し主語が大きくなりますが、日本の幼児教育は、義務教育も、みんな同じようにやって、そこから外れる子は個別対応といった線引きがなされる傾向もあるように感じます。でも、まちの保育園・こども園では、“みんな”として「まとめる」のではなく、“違う一人ひとり”を「わけない」。前提が大きく違いますね。
そうですね。僕らは、まちも園も、大人も子どもも、一人ひとりも、それぞれ違うあらゆるものを「わけない」ことに豊さが生まれると考えています。そこには「違い」を理解して大事にするという前提がある。一人ひとりの違いを知るために、近年「ニューロダイバーシティー(Neurodiversity:脳の多様性)」の研究とムーブメントづくりにも取り組んでいます。
──「ニューロダイバーシティー」について、詳しく教えてください。
「ニューロダイバーシティ」は、脳や神経に由来する特性の違いを個性として尊重し生かし合う概念のことを指します。発達障害と言われる自閉症やADHD(注意欠如・多動症)、学習障害などは、脳の感じ方の違いなんですね。誰しもに、目で見る、耳で聴く、など五感で得た情報を脳で処理する際の「認知特性」があります。
たとえば、目で見て記憶するのが得意な「視覚優位」の人は、最初に全体像を掴んで理解を深めていく。一方、耳で聞いて記憶するのが得意な「聴覚優位」の人は、断片的な人の話を聞きながら全体の物語を組み立てていく。
そういったそれぞれの脳の特性を理解することで、その人のパフォーマンスが発揮しやすい環境づくりができるんじゃないか。そういった仮説を立てて研究しているアメリカのチームがあって、伊藤穰一さんたちと、日本における学びの環境を整えながら、ニューロダイバーシティの概念を広げていく活動をしています。
──保育の現場だけでなく、家庭でも職場でも、自分と相手の脳の特性が理解できたら、コミュニケーションのアプローチ、そして関係性も変わってきそうですね。
そうなんです。お互いの違いを知って、わけずに生かし合うことができれば、その人のウェルビーイング、さらには社会を一歩前に進めることにもつながると思っています。