子育てをまちに開き、社会を拓く。 代々木公園の「こども園」探訪


子どもたちの学びの環境と地域の未来を、ともに育んでいく



(まちの保育園・こども園代表の松本理寿輝さん)

──開放的な空間に溢れる子どもたちの創作物に心が躍り、この場所が持つエネルギーのようなものを感じています。そもそも、まちの保育園・こども園が“「まちぐるみ」で子育てを、子どもたちと「まちづくり」を”実践するベースには、どんな想いがあるのでしょう。

出発点は、多様な人たちが暮らす社会で子どもを育てたほうがみんなにとっていいよね、という想いなんですが、創業からずっと、ふたつの視点を持ち続けています。「子どもたちの学びの未来をつくること」と「地域の未来を築くこと」。

子どもたちにとって、家庭や園で過ごすだけでは限られた人と閉じられた環境になってしまいがちですが、多様性に富んだ人々が働き暮らすまちは学びの宝庫です。それこそ一生モノの出会いや体験が得られるかもしれない。子どもの学びに地域の資源を生かしていきたいと考えています。

一方、地域に目を向けてみると、母親の“孤育て”や一人暮らしの高齢者、中高年の引きこもりなど、地域交流が希薄なことが引き金となる社会課題もあります。

子どもを円の真ん中に、家庭、保育者、地域の人たちがつながりあって“コミュニティ”をつくっていけたら、みんなにとってウェルビーイングな循環が生まれるんじゃないか。子どもたちと、家庭と園と、まちで貢献的な共存関係を築いていきたい。行政に頼る“公助”だけではなく、市民同士による“共助”の関係を充実させていくためにも、自分たちが地域運営主体となって、子どもたちと、まちと関わっていこう。そんな想いで11年前に、まちの保育園を立ち上げました。

以来僕らは、子どもを真ん中に、家庭、保育者、地域で働き暮らす人、園に関わるすべての人を“コミュニティ”と捉え、子育てを社会に開いていく姿勢を大事にしています。


(まちの保育園・こども園が描く「コミュニティの年輪」)

子どもたちの興味と、社会で楽しく学ぶ“ファンラーナー”をつなぎ、創造へ


──具体的にはどのようにして、まちに開かれた子育てが行われているのですか?

例えば、子どもたちはよくまちに散歩に出かけるんですが、ある日、解体工事をしていた旧原宿駅舎に興味を持って、まちづくりの工作を始めたことがあったんです。実際のまちと自分たちがつくるまちを行き来する中で、「何かが足りない……音だ!」とひらめき、まちの音に夢中になった。

そしたら保護者の方が「まちにサウンドアーティストがいるよ!」とつないでくれたので、ワークショップを開きました。靴を地面に擦り付ける音、水が落ちる音。子どもたちが集めた音をサウンドアーティストが波形にして見せてくれた。「音には形があるんだ!」と発見した子どもたちは、自分たちがつくるまちの音を、針金やネジをコラージュした「波形」で表現したんですね。

音を音で表現する、我々大人の発想を飛び越えて、音を絵で表現した子どもたちの感性が素晴らしいなと。僕らは、自分の問いを見つけて表現していく、子どもたちの「創造」を支えるコミュニティでありたいと思っているんですが、そこで重要なのが、ある領域を夢中になって探究し、楽しく学ぶ“ファンラーナー(fun learner)”の存在です。

まさに、サウンドアーティストは子どもたちの創造にインスピレーションを与えてくれるファンラーナーですよね。

──身近にサウンドアーティストがいることが、原宿というまちならではですね。

そうなんです。ここには代々木公園の豊かな自然もあるけれど、原宿というまちの文化がある。子どもたちの学びの環境には、自然も文化も大事だと思っていて。知識として形式化はできないかもしれないけど、その人がまとう価値観や文化に触れることは、子どもの学びの創造性を豊かにします。

保育者や保護者だけでは限界があるので、まちに出て行って、多様な価値観の人たちと出会ってほしい。積極的にその接点をつくるようにしています。


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文=徳 瑠里香 撮影=飯塚 朋美

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