NTT新ビジネス推進室未来サービス推進担当統括部長の池田大造とRidgelinezの佐藤浩之、五十嵐智生、宮下賛紀が語り合った。
五十嵐智生(以下、五十嵐):池田さんは、NTTグループが社運を懸けて推進する次世代情報通信基盤構想「IOWN(アイオン)」により実現されるビジネスの推進に携わられています。池田さんがNTTドコモに在籍されていた1年半前、いきなり「メタバースをやっているんです」と当社を訪ねてこられました。当時、私はまだ、実際にメタバースの開発をしている人にお目にかかったことがなかったので、新鮮でした。
池田大造(以下、池田):メタバースは、いまでこそ聞かない日はありませんが、その頃はまだそれほど注目されていませんでした。最初はゲーミフィケーションから入ったのですが、すぐにスマートシティに移行しました。スマートシティは、IoTでたくさんのデータを集めて、ビッグデータやAIを活用することで政策に役に立てるわけですが、何か違うと感じていました。インフラや政策ありきで、住民の要望が二の次になっています。スマートシティには、人を主役にするという考えが決定的に足りてないと感じました。
最初は多くの人がなじみやすいのではないかと思い、銀座の街をメタバースで再現してみたのですが、買い物するためだけに仮想空間に人が集まるのだろうかという疑問が湧きました。それで、人は何をしにこの空間に来るのかを皆さんと話し合ったのが最初でした。
佐藤浩之(以下、佐藤):日本では、地域の人が街を一緒につくっていく感覚が特に薄いです。メタバースで接点をつくっていくことで、「こういうことをしたい」という考えが人々から生まれるのではないか。そんな構想をしているときに池田さんにお会いし、いろいろと議論をしました。
池田:デジタルツインという考えがありますが、多くの人がメタバースのスマートシティというと、現実の空間をベースに考えがちです。でもせっかく違う空間があるんだったら、実際の社会ではできないことができる空間にしたほうがいいはずです。それに自分の理想がどういう街なのかを追求するためには、人と人とが交流することが重要なのではないかと思っていました。
たまたま私はNTTの社員としてここにいて話していますが、メタバースではこの制約から切り離されるので、時空間を選びません。関係性にこだわらなくていいし、名前を出しても出さなくてもいいし、現実の容姿である必要もありません。自分がどういう感性や価値観をもち、どういう空間に住みたいのかを表現する。肉体と精神の両方を表現できるのではないかという方向に議論は進みました。心や内面のデジタル化のほうが、より本質的な気がしたのです。