IOWN構想 x メタバース 次世代のテクノロジーの融合が社会に新たな価値を創造する

Getty Images


仮想空間での体験が現実社会に影響


五十嵐:池田さんたちとのプロジェクトでいちばん驚いたことは「音」です。メタバース上で単に人間の声が聞こえるだけでなく、街中にいるのと同じように右から左に音が動いていくし、囁き声に近づいていくと、ちゃんとその話が聞こえるようになる。普段、生活のなかで五感として感じているものを感じることができないと、面白みがないということに気づかされました。


Getty Images

池田:自己表現ができるテクノロジーとは何なのかを考えました。いまのSNSは、文字情報と絵文字が中心で、テキストを使わず交流するのは難しいです。そこで音や音楽、自分の音声にビジュアルを加えたコミュニケーションを考えました。アバターとアバターがすれ違ったら、映像と音だけでコミュニケーションをする。テキストは基本的には使わず、ちょっとだけ使う。そうしたら、徐々に「僕はこういう音を表現したい」とか、「街には固有の音があるよね」という意見が出るようになりましたね。

スマートシティと言ってはいますが、私は、最終的には人の居場所をつくりたかったのです。実社会ではできないことも含めた交流空間です。ゲームの空間でもできるのですが、ゲームだけで完結してしまうと、現実社会と切り離されてしまいます。現実とのつながりというか、連続性が重要だと考えています。例えばメタバース空間で普段会えない人と会い、その続きはリアル空間で会う。メタバース空間ではじめて入ったお店にリアルでも行く。現実世界とつながりをもたせたほうがいいと思ったのです。

佐藤:そこが池田さんのビジョナリーなところです。デジタルツールは課題解決型です。例えば社会や街の課題を見つけ、それをビッグデータなどを使って解決していく。ところが池田さんは、どうやって街をつくっていくのかという未来をまず考えています。日本は、市民が自分で行動を起こすという社会構造になかなかなっていませんが、こういう仕組みができることで、日本に活力が生まれるのではないかと思っています。

宮下さんには、まさにそういう議論をしているなかでプロジェクトに加わってもらいましたが、コミュニケーションと街を結び付けるという発想について、一級建築士の目からはどう見えますか。

宮下賛紀(以下、宮下):街を豊かにするというテーマには、社会システムから切り落とされてしまっているものが多々あると感じています。例えば空き地があり、一生懸命、緑豊かにしている人がいます。しかし、それは資本主義的には価値がないので、マンションにしようとする人もいます。それが果たしていいのか。街を行き交う人の気持ちを可視化できたら、よりその街を豊かにできるのではないかと思うのです。

佐藤:日本は土地が狭いから、家を建てることにこだわりますが、土地が無限にあったら、果たしてどうなのか。街づくりは、実はそこにポイントがあると思っています。自分が住むところは小さくていいけど、周りの風景をよりよくしようと考える人がいるかもしれないし、自分が住む空間を豊かにしたいと考える人もいるだろうし、重視する要素は人によって違うはずです。もし仮に無限の土地があったときに、自分はどうしたいと思うのかをメタバース空間の中で考える。そうしてリアルな世界に戻ってきたときには、これまでとはまったく違うことを考えつくかもしれません。そんな予感を感じるのです。

宮下:何をリアルで行い、何をバーチャルで行うかという線引きは、個人によって違います。メタバースでは基本的になんでもできるから、建築空間は何もない白い箱でいいと思う人がいるかもしれません。一方、メタバースによって、リアルの建築空間の重要性を再認識することもあるでしょう。そうなったときに、例えばいまは交通などの利便性が住宅の価値を決めますが、メタバース上で仕事ができることで価値観が一変し、建築の空間そのものや周辺環境の豊かさや多様性に価値を置く人が増えることも考えられます。そうした発想から、画一的な建物が増えるという風潮が変わっていくことを期待できます。
次ページ > IOWNがメタバースの可能性を拡張

text by Fumihiko Ohashi

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事