IOWNがメタバースの可能性を拡張
池田:インターネットは便利ですが、気がつくとグローバル経済が進出し、合理化と効率化を重視するあまり同質化が進み、どこも街並みは変わらなくなってきました。みんな同じような情報を見ているから、買うものも似通ってくる。これをみんなが望んでいたのかと疑問に感じます。もっといろいろな選択肢を提示し、選んでもらったほうが面白いはずで、街づくりでもそこが重要だと思います。メタバース空間で「あれなんだろう」と探索できたら面白くないですか。
従来の技術ではそれを表現できなかったのですが、IOWNではそれが可能になります。一度に大量の情報をメタバース空間で表現するのはコンピューティングの負荷が大きく、回線には負担です。いくら5Gでも、限られた回線、少ないサーバでは5万人や10万人がメタバースの同じ空間で交流したらおそらく動きません。
五十嵐:従来の技術には限界がきています。
池田:おっしゃる通りです。いまの調子でサイバー空間が拡大を続けたら、10年後、20年後にはインターネットもコンピュータも耐えられなくなるでしょう。データセンターが増えていますが、エネルギー供給が行き詰まります。その切り札となるのがIOWNなのです。電力効率は100倍になるし、伝送容量も125倍になります。IOWNの本質は、電気の世界の限界を超えることなのです。
インターネットは途中途中でたくさんの電気光変換を行っていますが、IOWNはそれを光のダイレクトパスに変革することで、光だけのエンド・トゥ・エンド通信が可能になり、低遅延と大容量・高品質を実現します。コンピューティングがIOWN対応のものに置き換わりますし、トランジスタやスイッチも置き換わる、劇的な転換を目指しているのです。NTTグループが勝負をかけてグローバルでこれを展開していきます。おかげさまで、いろいろな企業の方々と一緒に取り組んでいる状況です。
佐藤:大切なのは、何のためにその技術を使うか。人間がその技術を使いこなす世界にならなければ意味がありません。技術ありきだと、人間にとって、あるいは自然にとってという観点がどうしてもずれてしまいます。それがこれまでの工業化の歴史であり電気の世界だとすると、おそらく光の世界はもう少し違う発想になっていくでしょう。僕はそのキーワードのひとつが「分散化」だと思っています。光の世界を物理学的に見ると、ものすごいスピードで無数の空間が生まれ、分散していく。それはある種、人間らしさにつながっていくと思うのです。
池田:エンド・トゥ・エンドを光で結ぶと伝送容量を大きくできるので、分散型社会とは相性がいいです。一人ひとりに何か表現したいものがあっても、いまのインターネットはある意味、早い者勝ちの世界なので、誰かが回線の大半を使用していたら他の人は入り込めません。そのため、インタラクティブなコミュニケーションや、届けたい世界観を十分に表現できないことが多いです。それが光だと、波長ごとにユーザーを割り当てることができるので、過去から現在、未来までの時空間を越えた多様な世界や、一人ひとりがやりたいことを表現できるのです。