最終決裁者の心も動かす「資料」づくり
「巻込み力」の2つ目の技術は、資料のつくり方。ストーリーを資料に落とし込むための技術です。
資料をつくることのメリットは、2つあります。ひとつは本番で勝負せずに済むこと。「伝え下手」な人の特徴は、「本番」に弱いことです。資料を用意しておけば、「本番」は資料に沿って、淡々と進めることができます。資料はいわば、舞台の脚本のようなもの。脚本通りに進むので、瞬発力を鍛える必要がなくなります。
もうひとつは、目の前にいない対象までをも動かせるということ。企業であれば、ひとりで意思決定しているということは、まずありません。例えば、商談を想像してみてください。目の前にいる担当者を味方に巻き込めたとします。しかし、それで終わりではありません。
その担当者は最終決裁を上司に仰がなくてはならないからです。担当者が自分よりもその商品に詳しく、的確に説明できるなどということは、まずありません。その担当者が社内で的確に説明できずに、上司の最終決裁を得るのに失敗してしまう可能性も考えられます。
担当者には会えても、その担当者の上司に直接会える立場にはない。そんなとき、担当者から上司に資料を見せてもらうのです。この資料づくりによって、目の前にいない「評価する人」まで巻き込むことができるようになります。
ピンチをチャンスに変える「体当たり」
そして3つ目は、危機を乗り切るための技術。「体当たり」です。どんな人間でも、必ずピンチと向き合わなくてはいけないときがあります。大きなミスを犯してしまったとき、目標未達となってしまったときなど、どのように対処すべきなのでしょうか。
危機に陥ると、つい「失敗してしまった理由」や「やむを得なかった事情」を真正面から説明することで乗り切ろうとしてしまいがちです。ですがどんなに正論を語ったとしても、相手から見ると「言い訳をして逃げようとした」という印象しか残りません。「語る言葉の中身」よりも強く印象に残るのは、「逃げたという態度」のほうだからです。
こんなとき、どのように乗り切ればいいのでしょうか。「攻撃は最大の防御」ともいいます。じつは「体当たり」こそ、危機を乗り切る最上の方法なのです。
「巧みな言い訳」を繰り出そうと知恵を絞るのではなく、事実を基に、誠実に、逃げることなく「敗因」を相手に伝えるということ。そして「敗因」を伝えるだけではなく、「次の一手」も併せて伝える。謝罪や挽回策は常に相手の期待値を上回るものであることが重要です。
有名ベンチャー企業の経営者は謝罪会見などのピンチを、こうした「体当たり」で乗り切ってきました。「体当たり」することで、厳しい質問を投げかける記者たちを、いつのまにか味方に「巻き込んで」きたのです。
このように一流起業家たちが創業期から駆使し、飛躍への大きな力となった「巻込み力」。ぜひ日常の仕事の中に取り入れてみてください。
本稿は12月15日発売の、筆者の最新刊『巻込み力 国内外の超一流500人以上から学んだ必ず人を動かす伝え方』(Gakken)の内容を再編集しています。