このベンチャー企業の「巻込み力」は、何もマスコミ相手だけに働いているのではありません。顧客もまた「巻込まれる」存在のひとりです。
「ベンチャー企業」と呼ぶにはあまりにも巨大になりましたが、通信事業社(携帯電話会社)のソフトバンクがその一例です。競合のNTTドコモやKDDIと、取り扱っている製品や価格は大差ありませんが、明らかに異なるブランドとして顧客に認知されています。
その理由のひとつに、ソフトバンクの顧客には「孫正義のファン」が数多くいることが挙げられます。顧客が孫社長の掲げる夢や価値観に「巻き込まれて」いるのです。
多くの一流起業家が駆使している「巻込み力」。それは、自分自身のことをちゃんと伝えきれていない個人のビジネスパーソンにとっても、強力な武器となります。
というのも、「巻込み力」は起業家「個人」が、まだ何も手にしていない時期から、顧客・マスコミ・投資家・採用したい人材、さらには社会全体から「際立った存在」として認識されるための「伝え方の技術」だからです。
3つの「伝え方の技術」とは
この「巻込み力」は大きく分けて、3つの伝え方の技術によって構成されています。
ひとつ目は、ストーリーを語る技術。ストーリーこそ、「巻込み力」を発揮するためには最も重要な要素です。
まず、あなた自身を“大きな目標”に挑むストーリーの主人公として、イメージしてください。そして、その目標を思い切って、周囲に宣言してしまうのです。
アフリカのことわざに「早く行きたければ、ひとりで行け。遠くまで行きたければ、みんなで行け」という言葉があるそうです。ひとりでできることには限界があります。大きな目的を達成するには、味方が必要です。
ストーリーの主人公は味方をつくるために、正論で相手を説き伏せるようなことはしませんし、利益で釣るような真似もしません。同じ目標を共有する「味方」として、自分の側に「巻き込む」のです。
「巻込み力」を発揮するためには、最初に自分のストーリーを設定し、そのストーリーに沿って自分自身を伝える。それだけで十分です。このストーリーを語る技術を用いれば、正論をぶつけあう「上司との勝ち目のない戦い」のような泥沼に陥らずに済みます。