当時、私はベンチャー企業の経営者たちを好んで取材していました。大企業のような完成された事業基盤の上ではなく、何もない状態から事業を立ち上げる起業家の生き方に憧れていたからです。そんな起業家を、500人以上は取材してきました。
ソフトバンクグループの孫正義、楽天グループの三木谷浩史、ZOZOの前澤友作、そして米アプルのスティーブ・ジョブズといったカリスマ経営者にも、番組の看板のおかげでインタビューすることができました。
これらの取材を通して、気づいたことがあります。それは、急成長していくベンチャーはみな、創業から間もないころは共通の「伝え方」を用いているということです。それが「巻込み力」なのです。
メディアも顧客も「巻き込む」力とは
報道番組は社会的な影響力の高い企業を取材し、その内容を伝えることが責務です。例えばトヨタやNTTといった巨大企業の経営戦略は、日本経済全体の将来にも大きく影響します。それゆえ、番組で伝える価値があると見なされるのです。
ところが、ベンチャー企業にはそこまでの影響力がない場合がほとんど。「急成長ベンチャー」といっても、売上は数十億円程度。数億円程度の会社も珍しくありません。いずれにしても、歴史ある巨大企業の比ではありません。
では、なぜベンチャー企業がマスコミに取材されるようになるのか。そこには「巻込み力」が働いています。
誰を「巻き込む」のかというと、まずひとつは「マスコミの人間」。特にテレビの取材は、視聴者が想像する以上に、長い時間をかけられています。1時間のドキュメンタリー番組であれば、100時間近く取材することも珍しくありません。「長期密着取材」するのですから、どうせなら「嫌な相手」より「好感を抱ける相手」を取材対象にしたくなるものです。
同時に番組の製作者は、番組の持つ影響力を「よい方向」に使いたいと願っています。「このベンチャー企業の取り組みがもっと知られることで、世の中が少しよい方向に変わるのではないか」となどと考えているものなのです。
ですから、番組で取材するということは、すでにそのベンチャー企業の「応援団」のような感情を抱いていることが多くなります。つまり、「巻き込まれている」のです。