「良いものをつくる」だけでは限界がある。日本に足りない視点とは


岩本:本当にその通りだと思います。日本企業の課題の1つは、マーケットからの指標がない点だと思います。プロダクトの価値を考えているのも、基本的に生産者側。社会全体としても「良いものを作れば価値がある」という考えで、プロダクトアウトになっています。

ただ、いくら国内で価値があると言い張っても、他国からすれば価値を感じない場合もあり得る。現状は、グローバルな視点で、日本で生まれた文化にどのような価値があるのか、それが何のためになるのかと深掘りする力が圧倒的に足りていませんね。

人々は自分にとって価値があると思ったら製品を買うもので、その価値を生み出すのがマーケティング。今後は生産者側もどうすれば価値を生み出すことができるかと考えながら、プロダクトを生産する必要があるはずです。

中道:僕も、日本はその点が非常に足りないと考えています。世間では、マーケティングを“人を騙してモノを売りつけること”と勘違いしているところがありますが、実際は、モノ作りとマーケティングは互いにバランスをとったwin-winの関係です。

そのコミュニケーションが非常に大事であり、今の日本に足りないと考えているからこそ、僕としてはこの番組を通して変化を起こしていきたい。

おそらく、このまま変わらなければ、日本の将来は危ういと言わざるを得ません。今、14歳と13歳の息子がイギリスの学校に通っていますが、僕が経験してきた日本人の良さを彼らが継承するとしたら、そのためのベースを築いておかなければ手遅れになってしまう。今やらなければ、日本は世界から忘れられかねないと。

岩本:間違いないですね。実は、日本的な礼法や価値観はほとんど明治期以降にできています。その多くは、明治以降に学校や花嫁修業を通じて普及した礼法になります。

本来はお茶も教育ではなく、飲食様式でしかありませんでした。もてなしや精神性も、飲食の中から見出したことで生まれた概念ですから、そういった本質に触れる機会を社会的により増やすことができればと考えています。そのために、抜本的な改革が必要な時期に差し掛かっているのかもしれませんね。

中道:前回は形から入っていく「道」の話題もありましたが、形から入るハードルの高さというか、「こうしなければいけない」という考えが強くなりすぎるあまり、お茶を飲むという本来の楽しみが忘れ去られているところはありそうですね。

例えば、僕らの「a | round tea」は、サードウェーブコーヒーのお茶版のようなイメージです。入り口や発信の仕方を変えたとしても、最終的にお茶が飲まれることで生産者におカネが回るというところまで行き着けば問題ない。需要の生み出し方を変えていくことでしょうか。

今の日本は、就職活動でみんな黒いスーツを着て、政府が外すべきと許可するまではマスクをつけるなど、右へ倣えの風潮が強い。もちろん、そういった考えが良い方向に転じる場合もありますが、どちらかというと窮屈さが目立つ。自分で判断できない課題のあらわれだとも思っています。

岩本:私自身、型が好きだったからこそ、その価値を理解しつつ、型ばかりではいけないという考えにも賛同できます。

私たちの稽古場でも、若手の起業家たちが集まって一緒に学んで新たな挑戦をしていますから、ぜひ一度遊びに来てください。

中道:もちろん行かせてください。色々と教えてもらいたいです。

文=小谷紘友 編集=鈴木奈央

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