岩本:また、世界中に広まったお茶は単なる飲料ではなく、新たな価値観を備えた文化だと考えています。私はこの話をするときによく明治期の話をするのですが、当時における日本の主な外貨獲得手段は生糸とお茶でした。
中でもお茶は、ほとんどが米国への輸出であり、お茶が禁止になるほど出回っていたとされています。そうして爆発的に広まった後、岡倉天心が「Book of Tea」という書籍を出しますが、その冒頭ではお茶のことを、経済学や衛生学といった様々な学問に通ずる価値観だと定義しています。お茶というプロダクトが広まっていなければ、そのように定義することはできなかったのではないかと考えています。
中道:より詳しく教えてください。
岩本:概念先行の難しさでもありますが、私たちとしては、まずは抹茶という言葉を世界中に広め切ることを念頭に事業を進めています。「抹茶ラテ」といった形やどんな手段でも、抹茶という言葉を展開し、十分に広まった後に抹茶の持つ哲学を提唱していく戦略が必要でないかという考えになります。
中道:前回の「道」の話に通じる部分もありそうです。
岩本:そうですね。現在行っている稽古場はエグゼクティブ層向けなのですが、実業家の方々がお茶を学び、その精神性をインプットした上でプロダクトやサービスを作ることで社会に普及させていくイメージです。スティーブ・ジョブズが禅の考えを持って、Appleを作るという話にも似ていますね。
2000年にMacworld Expoのため来日したスティーブジョブズ(Getty Images)
中道:物事は、伝わって初めて価値になる。僕らが価値を作っていくプロセスも似ています。
岩本さんのお話からすると、お茶は明治期にすでに世界中に輸出されていたし、今では例えばイギリスであれば抹茶は誰もが認知しているものです。ただ、それがいつの間にか日本と紐づけられなくなってしまったという問題があります。
この構造は、僕がもったいないと思う日本の価値に共通するもので、すべては日本人や日本企業のコミュニケーションの拙さに起因しています。そしてそれは、自分を一歩下げて人を上げるという日本独特の文化がベースではないかと思います。
謙遜は、日本だけで生活するのであれば問題ありませんが、いまは世界と繋がることが前提の時代。こちらから発信しなければ相手には伝わらず、黙っていれば価値になることもまずありません。
加えて、抹茶を日本と繋いでおかなければ、どこか取られてしまうことすらありえます。また、お茶農家が苦しんでいる現状を打破するには、誰かが需要と供給の間に橋を架けて価値を生み出さなければなりません。僕らの会社の根本にあるのが、この問題意識です。