ストリート時代からアイデアを着想
もともと企画を考えるのが好きだったという小野里は、2013年頃、当時まだ存在していなかったウーバーイーツやポケモンGoのような仕組みを構想していた。ではスタッフスタートはどのようにして発案されたのか。
「僕の友達の多くは、アパレル店員だったり音楽で食べてる人だったり、いわゆるストリートで生活している人だったり。みんな良いやつなんだけど、仕事で苦しんでた。『給料が上がらない』とか『大学出たほうがよかったな』とか、そういう声ばっかり聞こえてきて、これは彼らがが幸せに生きられるような仕組みが必要なんじゃないかって思ったんだよね」
またフェイスブックやツィッターなどのSNSの勃興期でもあり「モデルや芸能人のような1人のカリスマに憧れてモノを買う時代から、共感や身近さを基準にした消費が起こるようになった。小売ではインフルエンサーも活躍していたけど、店舗の販売員こそが身近な存在になれるんじゃないかと考えた」という。
小野里は有名なブランドを持つ企業に営業をかけ、スタッフスタートのサービス導入と同時に販売員の「給与アップ」も提案した。もちろん経営者にとっては決して歓迎できるものではなく、当初は門前払いの連続だった。しかし「かつてのデスマーチに比べれば、何1つ苦ではなかった」と小野里は笑みを浮かべながら言う。
結局、限りなくスタッフスタートの価格をゼロに近づけ、あとはひたすら「お願いします」と頭を下げ続け、1社目の顧客獲得に成功する。
その営業活動は多少強引だったが、言葉に動かされて企業がサービスを採用すると、これが売れた。バニッシュスタンダードが行った調査では、インフルエンサーを活用した時より、販売員をECサイトに登場させたほうが、売り上げが平均して1.5倍にもなったのだ。
なかには、多くのフォロワーを獲得し、個人の月間最高売り上げ1億3000万円を記録した販売員もいる。月に500万円以上販売するスタッフも731人に及ぶという。
A社が導入し、「売れる」との噂が立てば、B社、C社とつながっていく。次々にサービスは拡大し、いまや2100ブランドが活用するまでに成長した。
「僕が企業に営業する時に言うのは『社員の可能性を大事にしてください』ってことだけ」と語る小野里。次のように訴えかけるのだという。
「社長は、店舗にスタッフを雇用してきましたよね? じゃあなぜスタッフがECサイトに立ち、接客をすることに臆病になっているんですか? 販売員こそが商品やブランドをよく理解していて、彼らの持つ力をEC販売でも役立てるべきです。一番のブランドのファンはスタッフです」
小野里の溢れるパッションがいま、本領を発揮している。情熱を語ることで成長する会社作りが進んでいる。