キャリア・教育

2022.12.05 17:00

「優秀な人材」が突き当たる壁


第六は「エゴの壁」。これは、優秀ではあるが、エゴが強すぎるため、自己主張が強く、周りの人間を遠ざけてしまい、チームワークを壊してしまうという壁である。

こうした人材は、あまり仲間を誉めることができず、仲間に対する競争心や嫉妬心で無用のエネルギーを使ってしまう傾向があり、何よりも、自分の「エゴ」が見えていないという問題を抱えている。従って、こうした人材には、ときおり静かに内観をして、「心の中のエゴの動き」を見つめるという心理技法を教えることが第一歩となる。

最後の第七は「他責の壁」。これは、仕事で「失敗」に直面したとき、その原因を「自分以外」に求めてしまうという壁である。

こうした人材は、プライドが高く、過去の成功体験が心の拠り所となっているため、失敗に直面したとき、「他責」の意識に流され、責任回避や責任転嫁の言動に向かう傾向がある。こうした人材には、さらに成長していくためには、失敗の原因を「外」に求めず、「自分の何が至らなかったか」を考える姿勢、すなわち「引き受け」の姿勢の大切さを教えることが第一歩となる。

こう述べてくると、マネジメントの立場にある読者は、自身が預かるメンバーの中にも、優秀だが成長が壁に突き当たっている人材がいることに気づかれるだろう。彼らの成長を支えるには、上記のように、まず、彼らが直面している壁を理解させることが第一歩となるが、実は、それは容易ではない。耳の痛いアドバイスを受けて、なお、彼らが、それを聞き入れる気持ちになるためには、何よりも、我々の「人間力」と、メンバーへの「愛情」が問われるからである。


田坂広志◎東京大学卒業。工学博士。米国バテル記念研究所研究員、日本総合研究所取締役を経て、現在、多摩大学大学院名誉教授。シンクタンク・ソフィアバンク代表。世界経済フォーラム(ダボス会議)Global AgendaCouncil元メンバー。全国7300名の経営者やリーダーが集う田坂塾・塾長。著書は『人間を磨く』など90冊余。

文=田坂広志

この記事は 「Forbes JAPAN No.098 2022年10月号(2022/8/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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田坂広志の「深き思索、静かな気づき」

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