それは、有名な大学を出て「優秀」と思われた人材が「成長の壁」に突き当たるという逆説である。では、その「成長の壁」とは何か。筆者は、新著『成長の技法』(PHP文庫)において、成長を止める「七つの壁」と、その壁を越える「七つの技法」を述べたが、本稿では、その要点を紹介しておこう。
まず、第一が「学歴の壁」。これは、有名大学を出た高学歴の人材が、しばしば突き当たる壁であるが、実社会における「職業的優秀さ」と「学歴的優秀さ」が、全く違った能力であることに気がつかず、論理的思考力や文献知修得力といった「学歴的能力」の次元に安住し、直観的判断力や体験知修得力といった高度な「職業的能力」を学ぼうとしないという問題である。
こうした人材の成長を支えるには、まず、自身の持つ「職業的能力」の「棚卸し」をすることの大切さを教えることが第一歩となる。
第二は「経験の壁」。これは、優秀ではあるが、「仕事は、結果さえ出せばよい」との姿勢であるため、その仕事の「経験」の振り返りを行い、謙虚に課題を発見し、仕事の技術や心得を磨いていけないという壁である。こうした人材の成長を支えるには、「経験」を糧として技術や心得を高めていく「反省の技法」を具体的に教えることが第一歩となる。
第三は「感情の壁」。これは、せっかく優れた能力を持ちながら、しばしば自分の感情に流され、他人の気持ちが分からないため、物事を上手く進められないという壁である。こうした人材には、会議において、自分の主張をする前に、まず、心を静め、一人一人の参加者の気持ちを想像する「心理推察の技法」を教えることが第一歩となる。
第四は「我流の壁」。これは、優秀で器用ではあるが、仕事の「基本」を疎かにし、「我流」で仕事に取り組んでいるため、プロフェッショナルとしては、あるレベルから上に伸びていけないという壁である。
こうした人材は、優れた上司や先輩から謙虚に学ぼうという姿勢が弱いという傾向があるが、その背景にあるのは「自分の流儀で仕事はできる」という慢心である。従って、こうした人材には、まず、その慢心による「能力開発の機会損失」の大きさを教えることが第一歩となる。
第五は「人格の壁」。これは、緻密かつ真面目な性格で、的確に仕事をこなすが、いつも「一つの人格」で仕事に取り組むため、様々な状況に合わせて適切に人格を切り替え、柔軟に対応することができないという壁である。
これは「優秀だが、頭が堅い」と評価されてしまう人材でもあるが、こうした人材には、世の中の優れたプロフェッショナルは、分野を問わず、誰もが「幾つもの人格」を持ち、それらの人格を状況に合わせて使い分けていることを教え、自分の中に幾つもの人格を育てていくことの必要性を教えることが第一歩となる。