東日本大震災の「風の電話」に触発された試みがアメリカで話題に

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2011年に東北地方を中心に発生した東日本大震災で親族を失った人たちの心を癒す、「風の電話」という電話ボックスが11年以上経ったいまも人々に愛され、利用されているという。

風の電話は、もともと海の見える高台に移住した庭師の人が、亡くなった従兄と対話をしたいと考え、大震災の前年に自宅の庭に電話ボックスを設置したことから始まった。翌年、大震災で被災した人たちのために敷地を整備し、一般開放したものだ。

この岩手県大槌町にある電話ボックスにインスパイアされ、アメリカのワシントン州に住む男の人が、1年前、深い森のなかにある大木に昔ながらのダイヤル式電話機を取り付けた。天国に行った人々と会話をするため設置された電話が、いままた話題を呼んでいる。

「自分の教会」を持たない人の増加


コーリー・デンベックというジャーナリストは、1年前、立て続けに祖父と両親を亡くし、さらに友人の 4歳の娘の突然死を知らされた。同じような悲しみを抱える人たちのために何かしたいと思っていた時に、ポッドキャストで大槌町の風の電話のことを聞いたのだという。

森のなかに設置された電話は、大槌町のオリジナルに敬意が払われ、同じく「風の電話」と命名された。1年がたったが、壊されたり、いたずらをされたりすることもなく、利用者の間で根強く愛されている。

亡くなった人はどこに行くのだろうという問いは、おそらく人間が宗教に求める問いの大きなものの1つだ。

日本では伝統的にお盆になれば死者が現世に戻ってくるとか、春と秋のお彼岸には、いつもはつい忘れがちになるお供えをするとか、命日が来れば親族で集まるなどの習慣が、信仰のあるなしにかかわらず幅広く受け入れられている。

一方、アメリカの場合は、お盆やお彼岸に代わるものが何であるのか日本人にはわかりにくいと思う。

あえて言えば、それに当たるのはハロウィンだ。もとはヨーロッパのケルト人の行事であり、死者の霊が家族を訪ねてくるので供え物を用意して待っているという伝統だった。しかし今日では、仮装やキャンディ配りで盛り上がることはあっても、死者を慰める意識でハロウィンを迎えるアメリカ人は寡聞にして知らない。

戦没者を追悼するメモリアルデーや、9.11のアメリカ同時多発テロの周年行事が営まれるなどはあるが、亡くなった親族とどのように対話をするのかについては、「自分の教会で祈ればよい」というだけでは大半のアメリカ人は満足を得ていないようにも感じる。そもそもアメリカでは「自分の教会」を持たない人も多くなってきている。
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文=長野慶太

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