教育立国フィンランド「デジタル化は、我々がどう生きるかという問題だ」

ヘルシンキ市郊外の公立小学校、Vattuniemi Comprehensive Schoolで学ぶ子どもたち

コロナ禍では、日本の社会のデジタル化の遅れが顕在化したが、社会のデジタル化は「どのような社会をつくりたいのか」というビジョンに直結する。

教育と福祉で有名な国、北欧のフィンランドでの現地取材と有識者インタビューをもとに、前編・後編にわたって、デジタル化の取り組みとその経費、背景について紹介したい。

前編「北欧フィンランド全国民向けAI無料講座が成功した理由」はこちら


フィンランドは、2021年、ヨーロッパのデジタル経済社会指数(DESI)で1位となっている。特筆すべきは、Human Capital(人的資本)指数が最も高いことで、市民がいかに実際に利用しているかを示している。

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教育立国としても有名なフィンランドでは、全国の公立小学校のカリキュラムでもメディア・リテラシーが重視され、「Phenomenon Based learning」と呼ばれる実社会での現象を元に学習を進めていく手法で学んでいる。ヘルシンキ郊外の公立小学校、ヴァットゥニエミ小学校(冒頭写真)では、インターネット上の企業広告や、ネットいじめを題材にしたりなどして学習している。

また、前編の記事で見てきたフィンランド全国民向けAI無料講座「Elements of AI」の成功例は、フィンランド政府のユニークな「インクルーシブなAI戦略」にも大きな影響を与えているといわれる。

公共サービスのデジタル化


マイナンバーカードと健康保険証の一体化など、行政システムのデジタル化、公共サービスの利便化は日本でも大きな話題となっている。しかし、河野太郎デジタル大臣が10月に保険証の廃止と「マイナ保険証」に切り替える方針を発表したのち、報道やSNSで批判され、岸田総理がのちに例外をみとめる発言をするなど、国民とのコミュニケーション不足と省庁間・の協力、また医療業界の反発などもあり、道のりはとても長そうだ。

人口約550万人のフィンランドでは、すべての公的医療機関と民間の医療機関がデータを共有しており、36万件の電子カルテはID(個人識別番号)で管理、薬局へも処方箋情報が共有され、市民はIDカードを提示するだけで、一気通貫したサービスを受けられる。

Kanta Serviceと呼ばれるこのヘルスケアサービスは、国民と医療従事者が同じデータにアクセスできるユニークなシステムで、約380万人、現役世代の93%、76歳以上の人の44% が利用している。

このようなフィンランドのデジタル公共サービスの基盤となっている機関が、デジタル住民登録センター(Disital and Population Data Servics Agency)だ。

市民のほかに政府機関や裁判所、病院などからアナログ、デジタル双方で提供される情報を人口情報システムに統合し、警察や社会保険庁や国税庁に情報として共有される。また、有料で銀行や生命保険会社などの民間企業も、限定的ではあるが情報が利用できる。
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編集=岩坪文子 取材協力=フィンランド大使館、柴山由理子

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