教育立国フィンランド「デジタル化は、我々がどう生きるかという問題だ」

ヘルシンキ市郊外の公立小学校、Vattuniemi Comprehensive Schoolで学ぶ子どもたち


デジタル住民登録センター自体は、1969年に開設。デジタル住民登録は1971年に始まった。2016年、フィンランドのすべての公的機関は、同データの利用と情報の提供を法律で義務化された。

日本では苦戦している省庁間や国と自治体でのデータの共有ややりとりは、もちろんフィンランドでも課題ではあったが、この法律での義務化が大きな役割を果たし、公共機関や市民の利用頻度が増すにつれ、データの重要性や利便性が増していると、同機関のチーフ・シニア・スペシャリストのヤニ・ルースカネン氏は話す。

また、フィンランド政府の野心的な取り組みの一つが、AI(人工知能)技術を使ったプッシュ型のサービスレコメンデーションシステム「Aurora AI」の開発だ。フィンランド国内すべての公共サービスをカタログ化、APIを構築し、ブラウザ、モバイル、チャットボットなど多様なチャネルでさまざまなサービスが提供可能だ。

例えば、モバイルアプリ「Mobiililuotsi」は、仕事を探すための公共サービスを、地域を横断して紹介してくれ、窓口から窓口へ、転々とする必要がない。問い合わせのテキストメッセージの外国語翻訳サービスも行われており、現在はウクライナ語でのサービスも提供しているという。

また、「Zekki」は、15歳から25歳の若者向けのアプリ。オンラインによる、ウェルビーイングと自己評価クイズを起点として、生活状況に合った多様な公共サービスをアドバイスしてくれるという。

「もちろん個人データの利用に関しては議論があるが、法律で厳しく規制されていることもあり、国民からの大きな反対はありません。民間企業が入手するとしても、名前と住所くらいだ。さらにもし個人が第3機関に提供してほしくない、とポータルサイト『Suomi.fi』で『開示しない』を選択すれば、開示されることはありません」(ルースカネン)

デジタル化とは、我々の生活を根本的に変える


「伝統的に、フィンランド人は新しいテクノロジーを受け入れる利点について非常に楽観的であり、新しいテクノロジーを学び、適応することにとても積極的です。私たちが十分な教育を受け、知識を持っていればコントロールできる、という想定もあります」

そう話すのは、フィンランドの社会イノベーションを専門とするシンクタンクDemos Helsinki代表のアレクシ・ニューボネン氏だ。「Digitalisaatio」(※フィンランド語で「デジタリゼーション」)という本の執筆者の1人でもある。

「ハンナ・アーレントは1958年、より多くのコンピューターが社会に普及し始めた時代、発達した科学の力を目の当たりにした。このドイツ出身の哲学者が、すぐに驚異と見なした力を、われわれは昨今デジタル化と呼んでいる。

デジタル化とは、異なるビジネス分野における技術の発展ではなく、われわれの生活を根本的に動かす現象である。それは、付き従い、うまく付き合っていけば良いだけのゲームではない。ここで問題となるのは、デジタル競争に勝つことではない。これは権力の問題であり、ひいてはわれわれがどう生きたいかという問題なのである」と、ニューボネンはその著書の中で述べている。
次ページ > 日本は最初の一歩をまだ踏み出していない

編集=岩坪文子 取材協力=フィンランド大使館、柴山由理子

ForbesBrandVoice

人気記事