「みんな違う現実を生きている」メタバースを超えた先の現実科学とは?

ハコスコ代表、デジタルハリウッド大学大学院教授・藤井直敬氏


──脳の研究を続けるうちに、SRの世界が面白くなっていった?

そうですね。でも、当時はVRのヘッドマウントディスプレイはとても高価で、一般ユーザーが簡単に手の届くような代物ではありませんでした。そこで、試しにダンボールとスマホのセンサーとカメラでVRゴーグルをつくって覗いてみたら、「あれ、これでいいじゃん」と。

これがきっかけとなり、知人の経営者の方にアドバイスをいただきながら、ハコスコを起業しました。


スマホを使用したダンボール製VRゴーグル。組み立てたゴーグルにスマホをセットしレンズを覗くだけで、VRの世界が広がる。段ボールにオリジナルプリントを施せるので企業のプロモーションとしても注目、活用されている

──研究者でありながら起業を決めたときは、どんな心境でしたか?

正直ビジネスには興味もなかったし、成功するとも思っていませんでした。手探りで、なんとなく感覚をつかんで今に至るといったところですね。

ただ、会社経営をずっとやりたいわけではないし、360度の実写VRも最初は手ごたえがありましたが、そもそも360度映像って一般の人々は日常生活で頻繁にはやろうと思わないよなという事業の限界も感じてきて。

考えあぐねていた頃にメタバースという新しい潮流が生まれ、もう少しこの会社でチャレンジしてみようという気持ちでECメタバースの「メタストア」をはじめました。

簡易なメタバースショップでつくるべきものは「面倒くささ」?


──新規事業としてECメタバースに着目されたのは、市場が未開拓だからでしょうか?

市場への意識というより、なにか人がアクセスする意味のある空間をつくりたいという思いが強いですね。

例えば、VRを使ったイベントの場合、その会場にアクセスしないとコンテンツが体験できないわけですから、人が集まる意味があります。一方、コンテンツがないファミレスみたいな場所でコミュニケーションを促すだけだと、空間としての意味が感じられないしメタバースじゃなくてもいい。

メタバースで人と人を繋げるために何が必要なのか考えたときに、簡易に誰もが始められる商売や決済の仕組みをつくってあげればいいのではないかと。この着想が「メタストア」をはじめたきっかけです。


ハコスコが運営する「メタストア」。月額1万円から短納期でメタバース空間にストアをつくれるECサービス。Shopifyなどの既存のECショップと連動した商品管理も可能だ
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文=出村光世

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