2022年10月現在、カバーが運営するホロライブプロダクションには総勢71人のVTuberタレントが所属している。YouTubeチャンネル登録数ランキングの世界1位はホロライブ所属の「がうる・ぐら」で423万人(ユーザーローカル調べ、2022年10月31日時点)。その他、7人がトップ10入りし、プロダクション全体ではチャンネル登録数が7000万人に達している。
現在、VTuberプロダクションは、今年6月に東証グロース市場に上場したANYCOLORの「にじさんじ」と、カバーの「ホロライブ」の2強状態だ。どうして三番手以下を引き離すことができたのか。谷郷は、「強みは3D」という。
VTuberのライブ配信は、大きくふたつに分かれる。ひとつは、スマホアプリでフェイストラッキングして2Dで配信する方法。大がかりな設備は必要なく、VTuberは自宅からスマホを使ってセルフで配信できる。もうひとつは、モーションキャプチャを使って3Dで配信する方法だ。こちらはVRの技術とスタジオが必要になる。
「私たちはもともとVRの会社で、技術はありました。3Dのモーションキャプチャスタジオは、シリーズAで調達した資金2億円のうち約3分の1を使ってつくりました。複数のVTuberが歌って踊れる大きなスタジオです。スタジオの場所?もちろんそれは秘密です」
3D技術は、ライブ配信だけでなくショートアニメにも発揮されている。ホロライブはVTuberを登場人物とする1~2分の3Dアニメを制作して、毎週配信している。
「VTuberのライブ配信は1~2時間と長く、一見さんは入りにくい。最近、切り抜き動画(長時間の動画を編集して短くまとめたもの)がはやっているのもそのためです。ホロライブは切り抜き動画のほか、ショートアニメを配信して敷居を下げています。3Dアニメーションの展開は、私たちが最も強いところだと自負しています」
カバーはVTuberのマネジメント会社のほか、配信設備や配信システムをもつ放送局、そして自社でコンテンツをつくるアニメ制作会社としての機能を有している。業界への参入を目指す企業が配信やコンテンツ制作の機能をもつこと自体が簡単ではないが、カバーはそれらの機能の中心に3D技術を据えた。それが圧倒的な優位性となり、いまのポジションを築くに至ったのだ。
(続きはフォーブス ジャパン2023年1月号でお読みいただけます)
谷郷元昭◎慶應義塾大学理工学部卒。ゲーム会社でのプロデューサー、アイスタイルでのEC事業立ち上げなどを経て、サンゼロミニッツを創業し、後にイードへ売却。2016年、カバー創業。