このように、現在のカーボン市場では、カーボンクレジットの価格がクレジットの「質」を適正に反映できておらず、非常に不透明であり、それが市場の非効率性へとつながっている。
購入側がクレジットの質にもとづいた購入判断が難しいことに加え、削減プロジェクトへのファンディングもつきにくくなり、供給不足の一因となっている。
また、逆にこの非効率性を利用して、質の低い削減プロジェクトのクレジットをあたかも質が高いかのように見せかけてクレジットを販売したり、またグリーンウォッシュのために安いクレジットを購入したりして企業のESG(環境・社会・企業統治)のアピールに活用するなどの負の循環も発生している。
ブロックチェーンがカーボンクレジット市場を効率化
この問題をブロックチェーンで解決しようという動きが出ている。
Xange.com(エクスチェンジ)は、国連とのパートナーシップを通して、アフリカのサハラ砂漠の拡大を阻止する大規模な植林プロジェクト、グレートグリーンウォール・イニシアチブを対象としたカーボンクレジットトークンをパブリックブロックチェーンであるXRPレジャー上でNFTとして発行し、トークンの取引所をローンチする計画を2021年末に発表した。
Xange.comは、カーボンクレジットのトークン標準化を目指すInterWork Alliance (IWA)のフレームワークなどにもとづき、カーボンクレジットを個別の植林プロジェクト紐づけるかたちでNFTを発行する。これにより、このカーボンクレジットトークンの購入者は削減の源となるプロジェクトをパブリックに証明できるかたちで追跡できることになり、クレジット市場の透明性と効率性の向上が実現する。
もう一つのプロジェクトはCarbonCure(カーボンキュア)である。この会社は、液化CO2をコンクリートの製造過程で注入することによって、コンクリートの強度を高め、かつCO2をコンクリートに貯蔵する技術を開発したカナダのスタートアップである。
CarbonCure社にはビル・ゲイツやジェフ・ベゾスも出資するなど大注目のスタートアップで、日本からは三菱商事が出資をしている。CarbonCure社もXange.comと同様に、削減するCO2のカーボンクレジットをNFT化し、そのトークン発行基盤としてXRPレジャーを採用する。
筆者が勤務するリップル社では、2030年までに自社のネットゼロ達成を宣言していることからも、今後CarbonCure社からトークン化されたカーボンクレジットを受け取ることを条件に、事前の資金として3000万ドルを提供することも発表された。このような先進的な環境技術の開発や実装にはとにかく事前の資金が必要だ。
将来のカーボンクレジット売却は投資回収の重要なファクターだが、この部分がトークン化されることによって透明性が向上し、資金提供側も投資リスクを引き下げることが可能となる。
カーボンクレジットをNFT化することによって、パブリックなオンチェーンで、個々の削減プロジェクトが固有のIDで紐づけられるので、これまでは認証機関の情報のみを信頼せざるを得なかったのが、購入者が削減プロジェクトのデータに直接アクセスできることでその質を継続的にモニタリングすることができ、また過大発行や二重発行・保有などのリスクを回避できるようになる。