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2022.11.18

ブロックチェーンはカーボンクレジット市場をどう変革させるのか?

Getty Images

2021年から22年前半のNFT(非代替性トークン)ブームでは、実用性がはっきりしない投機的なNFTプロジェクトが多く存在していた。

NFTブームの狂乱が落ち着いてきた現在、その裏では静かに「実用的NFT」が台頭し始めている。特に、サステナビリティ分野とブロックチェーンの相性は良く、非効率的なカーボンクレジット市場をブロックチェーンの力で変革しようとする企業やプロジェクトが数々出現しはじめてきている。

今回は、カーボンクレジット市場においてブロックチェーン技術、特にNFTがどのように活用され始めているかに焦点を当てて、海外での実例を紹介したい。


ネットゼロ達成の必要条件としてのカーボンクレジット市場


世界中でさまざまな企業が、ネットゼロ宣言をしている。2015年に採択されたパリ協定に企業が連動する形で、特定の年までにその企業が排出する炭素(カーボン)をゼロにすることを自発的にコミットする動きだ。しかし、ネットゼロを宣言しても、企業活動の中で削減できる炭素は限られている。そこで矛先が向かうのがカーボンクレジットとなる。

カーボンクレジットとは、炭素の排出削減量をクレジットとして発行し、企業間などで取引可能にしたものだ。政府主導の規制の枠組み下で設立されたカーボン市場とは異なる、民間主導のボランタリーカーボンクレジット市場は急成長しており、2021年には前年比で5割も拡大している。

世界銀行によると2030年までにボランタリーカーボンクレジットの市場規模は20兆円にまで達すると見込まれている。カーボンクレジットの源泉は大きく分けて4つのカテゴリーに分類される。自然損失回避(森林減少の回避など)、自然ベースの炭素貯留(森林再生など)、追加的な排出回避・削減(燃料転換など)、技術ベースの炭素貯留(直接空気回収など)である。

非効率なカーボンクレジット市場


しかし、カーボンクレジット市場は大きな課題を抱えている。

まず、カーボンクレジットへの需要が急増する一方で、良質なクレジットの供給が全く追いついていないという状況がある。自主的炭素市場拡大タスクフォース(TSVCM)によると、パリ協定で定められた目標を達成するためには、2030年までに自主的炭素市場におけるカーボンクレジットの取引量は15倍にも成長しなければならないと言われている。供給が追いつかない一つの理由は、カーボンクレジット市場の非効率性にある。

カーボンクレジットは個々の削減プロジェクトによって「質」が大きく異なるが、現在のカーボンクレジット市場では、その質の違いを差別化することが難しい。

例えば、言われているほどの炭素削減効果がないにもかかわらずクレジットが過大発行されていたり、すでに他企業によって償却されたクレジットが市場に出回っていたり、または削減プロジェクトの裏で別の環境破壊を引き起こしていたりすることもある。ある日本の製薬会社が、カーボンクレジットを大量購入することで早々に脱炭素化を宣言したものの、実態は購入したクレジットに質の悪いクレジットが含まれていたことが判明したという事例もある。
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文=吉川絵美

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