住宅弱者と一口に言っても、高齢者や障害者への支援についての議論は進むなか、そのほかは俎上に載せられていないケースもある。また、カテゴリー分けをしていても実際は借りるのが難しい場合も。「障害の場合は、知的・精神・発達・身体の4つのカテゴリーと重度・軽度など人によってさまざまです。状況によっては障害者フレンドリーの不動産会社でも断られてしまう物件があると思いますが、他の物件や専門家に繋げられたら条件に合う物件が見つかるかもしれません。利用者の方を少しでも理解のある人に繋げたいと思っています」
2019年11月のリリース時点では「FRIENDLY DOOR」の参画店舗は400店だったが、いまでは4000店以上に。当初は社内の営業部門担当者と連携し、各不動産会社に各カテゴリーの対応が可能かチェックしてもらっていたが、いまでは新規営業の際に必ず「FRIENDLY DOOR」を紹介することで、毎月着々と参画店舗数を増やしてきた。
住宅弱者を無くすため 業界全体でDE&Iに対応を
今後どのような展開を考えているのだろうか。キョウは「参画店舗数は増えていますが、まだ利用者がどの不動産会社に行けば、自分にとって適切な対応がされるか可視化されていません。『FRIENDLY DOOR』を使ったが対応されなかったという声も1、2件あり、これは一番望んでいないことです。今後は対応実績を可視化することで、当事者がより選びやすくしていきます」と語る。さらにカテゴリーを増やすことも検討している。
「まず、社会的養護などの『家族に頼れない若者』のカテゴリーを追加したいと思っています。成人年齢が18歳に引き下げられましたが、10代は親の同意がなければ家を借りることはできません。最初は養護施設の施設長が代理人となりますが、一人暮らしがしづらい状況があります。ですが、本当はこんなサービスがなくても良い状態が理想ですね」
今後はLIFULL一社だけでなく、住宅弱者を無くすために競合他社とも協力し、不動産業界全体でDE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン:多様性、公平性、包括性の意味)に対応できるように変えていく必要性を感じている。
「結局は不動産会社の店舗担当者やオーナーの対応など、人の行動が一番の課題です。セクシャルマイノリティへのアウティングや、年齢や国籍などで無意識に排他しないよう配慮できるように、自身のバイアスに気づいて接客の改善を促すアンコンシャスバイアス研修を積極的に開いていきたいですし、これらをしっかりやっている不動産会社が評価される仕組みづくりをしていきたいです」
忘れられない、少女の「私は臭いですか」
キョウが10代のころ見たドキュメンタリー番組「世界がもし100人の村だったら」の忘れられないシーンがある。フィリピンのゴミ山で働く少女が真っ直ぐと、リポーターの酒井美紀を見てこう聞いたのだ。「私は臭いですか」
「子どもは、生まれる場所や親を選べません。私もたまたま上海で生まれ、日本で育ちました。就職活動では中国籍の名前で断られたり、電車の中で中国語で話すだけで差別的な体験もしました。私には選挙権もありません。選択肢が狭い人生でした。だからこそ同じように悩む人たちの選択肢を広げるお手伝いがしたいです」
キョウの仕事は不動産業に止まらない。プロボノとして2015年からメンバーとなった、認定NPO法人Living in Peaceの代表理事も務める。難民支援に注力しており、「FRIENDLY DOOR」でもことし6月に居住支援法人メイクホームと連携し、難民・避難民に対する住まいの支援窓口を開設した。シェルターではなく、すべての人に安心して暮らせる選択肢を──。住宅弱者を無くすというぶれない思いが事業の推進力になっている。