ビジネス

2022.11.12 10:00

「住宅弱者」フレンドリーな不動産会社が増加 中国籍の社員が旗振り役


子供のころから日本社会に馴染んで生活してきたものの、振り返ればキョウ自身も住まいの選択肢が限られてきたことに気づいた。「子供だったのであまりよくわかっていませんでしたが、私が中学生の終わりに家を購入する時に、父は永住権があるのにメガバンクに融資を断られているんですよね。それまではUR賃貸を転々としていましたし。過去を遡って考えてみると、住まいの選択肢が少なかったことを実感しました」

社会人になると、実際に中国籍であることを理由に住まいを借りづらい体験もした。

入社8年目の転機、NPO活動での気づき


だが、新卒入社後はなかなか事業立案に携われずにいた。2016年からは社内で社会貢献活動を後押しする制度を立ち上げるなかで、生活困窮者の支援を行う認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやいの活動に参加。不動産のプロとして「住まい結び」事業を援助していた。

「生活困窮者の方々は、障害や高齢であることや家族に頼れないというバックグランドがあり、信用リスクが低く、オーナーに断られることが多い。スタッフが仲介として管理会社に電話しても十中八九断られるんですよね。当事者も支援者もちゃんと対応してもらえる会社がわからない。外国籍の人の住まい探しと同じ問題だと気づきました」と振り返る。

活動を通じて、「外国籍や生活保護利用者など、住宅弱者のための住まい相談窓口を開設したい」という思いは募るばかりだった。入社8年目に転機が訪れる。社内の新規事業立案のためのビジネスコンテストに出場し、現場から感じた課題意識をプレゼンすると、優秀賞を勝ち取り、事業化が決まった。 

「ただ物件を探すのではなく、この事業に理解を示し、オーナーと交渉してくれる不動産会社を増やす」ことで、裾野を広げることにした。サービス設計の裏側では、もやいの大西連代表やR65不動産の山本遼代表など、各分野に詳しい専門家と連携し、現場の声を拾い上げているのも特徴だ。

ライフル FRIENDLY DOORキョウ・イグン

現在「FRIENDLY DOOR」では、外国籍、LGBTQ、生活保護利用者、高齢者、シングルマザー・ファザー、被災者、障害者の7つのカテゴリーに分けて、全国のそれぞれの分野にフレンドリーな不動産会社を検索できる。また、不動産会社や物件オーナーの理解が進むように、各分野のセミナーや研修にも力を入れている。

例えば、LGBTQに関しては東京都が11月からパートナーシップ宣誓制度を開始するなど、全国で公的にパートナーシップ関係を認めることで入居などの手続きを円滑にする仕組みづくりが始まっている。キョウは「理解のある不動産会社であれば、借りやすくなったとは聞いています。ですが、いまだに(入居審査に)性別は関係ないと経営層が掲げていても、現場との意識の乖離が大きい場合もあり、依然として性差別は残っているのが現状です」と指摘する。
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文=督あかり 写真=小田駿一

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