そんな不安を抱えたことはあるだろうか。
日本には、外国籍や障がい者、LGBTQ、高齢者など、住まいを借りにくい状況にある「住宅弱者」がいる。そんな人たちが安心して家を借りられるように奔走する女性がいる。
LGBTQのパートナーシップ宣誓制度が各地で取り入れられるなど、社会的な意識の変化が進む分野もあるが「家を借りる」となると、ハードルが高いと感じる人もおり、当事者以外にはなかなか知られていないのが住宅弱者の現状だ。
不動産・住宅情報サイトを運営するLIFULL(ライフル)の住宅弱者にフレンドリーな不動産会社を紹介する取り組み「FRIENDLY DOOR」事業責任者、龔 軼群(キョウ・イグン)だ。中国人の両親のもと上海で生まれ、5歳で来日。日本で進学・就職をしたものの、社会人になって自身も中国籍であることを理由に賃貸を借りられない経験をした。
そんな彼女が始めた「FRIENDLY DOOR」は、2019年のローンチ当初に参画した不動産店舗は400店ほどだったが、いまでは10倍に増えた。サービス拡大の裏には、当事者の声を掬い上げる、キョウの徹底した現場主義の姿勢があった。
入居差別を体験──入社面接で社長に伝えた思い
1986年にキョウが上海で生まれた後、日中友好が復活して中国からの日本留学がさかんだったころ、エンジニアだった父は単身日本へ渡った。技術的に進んでいた日本で働き、日本の教育を受けさせたいと、キョウが5歳の時、埼玉県川口市にいた父に呼び寄せられた。教育熱心な父のもと保育園の後には「あいうえお」を勉強し、小学校低学年ごろには日本語を習得した。
その後は大学まで日本で進学し、学生時代は1年間上海・復旦大学に「逆留学」を経験。2010年にLIFULL (当時、ネクスト)へ新卒入社した。
キョウは自身のアイデンティティーをこう表現する。「中国生まれ、日本育ちの私はいつも果実に自分を例えるんです。タネは中国だけど、実の部分は日本。パスポートが唯一、外国籍を示すものになっています」
実は、就職活動を機に日本国籍に変えることも一時考えたという。「自分が何者か分からず、親や周りにも相談できずに悩んでいた時期がありました。上海に交換留学をしたらアメリカや東南アジア出身の華僑が多くいて、多様なアイデンティティやルーツに誇りをもっている友人と出会い、自分自身を肯定できるようになりました。今のところ国籍は変えていません」
そんなキョウが、LIFULLの最終面接で井上高志社長に伝えたのは「外国人の入居差別を無くしたい」という思いだ。2008年ごろ、上海からいとこが留学生として来日した際に、中国籍であることを理由に家探しが難航し、初めて外国人の入居差別を体感したという。「日本人の保証人もいたので問題ないと思っていましたが、中国籍だとオーナーがOKしないと言われ、衝撃的でした」