ビジネス

2022.11.08 12:00

三井物産に受け継がれてきた人的資本経営。同一人格で主役と名脇役の両方を

堀 健一|三井物産 代表取締役社長

堀 健一|三井物産 代表取締役社長

発売中の「Forbes JAPAN」2022年12月号の特集「人と社会を活かす会社100」では、東証プライム上場企業を対象に「ステークホルダー資本主義」「人的資本」「ダイバーシティ」「気候変動対策」「持続可能性」「働きがい」「非財務情報開示率」の7つのランキングを作成した。

サステナブルな会社ランキング「人的資本」部門2位に輝いたのは、三井物産だ。「人の三井」といわれてきた同社の堀社長が考える「人と経営」とは。

「人の三井」と評されてきた三井物産が掲げているビジョンは「360°business innovation」。中期経営計画の人材戦略でも、「多様な強い『個』の育成・活躍」を打ち出すなど、「人」を重視する姿勢を創業以来、貫き続けている。

同社は、若手社員を海外に派遣するプログラムや、次世代の経営人材育成を目指し、米ハーバード・ビジネス・スクールと共同開発した「グローバル・マネジメント・アカデミープログラム(GMA)」などさまざまな人材育成プログラムを整備している。脈々と受け継いできた同社の人的資本経営とは。


──「人的資本経営」をどう考えるか。

堀健一(以下、堀):人材は最も大切な経営資本だ。「人財」と呼んでいい。こうした考えは、旧三井物産の創業者、益田孝の時代から変わっていない。いかにグローバルで通用する人材を高い目線で育成し、お互いの力を合わせながら互恵的に活躍できるチームをつくれるかが、企業価値を決める。その本質は変わらない。

今日のビジネスは、「業際」、すなわち産業をまたがる知見の組み合わせではじめて有効なソリューションが出てくる課題が多い。だからこそ、多様な人材が鍵を握る。世界で採用・育成・登用することが経営の根幹だと、みな強く意識している。

そして、「強い『個』」は、自立的な発想で物事やビジネスを考えられる人材、「インディペンデント・シンカー」だ。さまざまなバックグラウンドからなるお互いのよさやユニークさを認め合い、力を補完し合いながら、目標達成するチームを編成し、業際を超えたアイデアを出していくことが大事だ。多様性がイノベーションの源泉になる。

──「多様な強いチーム」とは。

:プロジェクトチームにおいては、ひとつのチームのなかに、異なるバックグラウンドで育ってきたメンバーがいたほうが壁にぶつかったときに現実解を出す確度が上がる。その意味では、引き出しが多くて懐が深いチームになるためには、強い「個」のメンバーを選出することがまず大事になる。

その上で、局面が変わると、リーダー役、補佐役が変わるような柔軟性のあるチームが強い。だからこそ、社員にも「同一人格で、主役と名脇役の両方ができるようになれ」と常に言っている。

このようにお互いを尊重できる土俵で上を目指すと、個のさらなる成長につながり、チームをより強くするという好循環を生む。そして、社長就任以降、言い続けているのは、一見目立たない「地味な中盤戦(ミドルゲーム)」の重要さ。目立つ成功よりも日々の判断が大事で、その積み重ねが強い「個」や強いチームを形成する。
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文=池田正史 写真=若原瑞昌

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