「アップルのエコシステム」にiPadの真の強みはある
世界の経済情勢がめまぐるしく変わる現在、あらゆるモノやサービスの価格が影響を受けている。アップルのデバイスもその例外ではないが、ボーチャーズ氏は「iPadをはじめとするアップルのデバイスは高いスペックだけでなく、ユーザー第一主義の考え方から設計されたさまざまな機能を備えています。購入後も長く色あせない体験価値には、価格を越えた魅力がある」と強調している。
例えばアップルのデバイスやサービスを連係させて、iPadをより便利に使う方法がある。ボーチャーズ氏が挙げる機能の1つが「ハンドオフ」だ。Apple IDを使ってiCloudにサインインしているユーザーのデバイスどうしであれば、電車による移動中にiPhoneで書き始めたメールの続きを、カフェに着席して腰を落ち着けてからiPadで完成させて送るといったワークフローがスムーズに完結する。
アップルデバイス同士をリンクさせて1つのタスクをこなせる「ハンドオフ」iPhoneとiPadとのあいだでアプリによる作業を連続して行える。例えばメールアプリの場合、iPhoneを近づけると写真の中に印を付けたiPhoneのアイコンが付いたメールアプリがiPad側で立ち上がる
ボーチャーズ氏が勧めるもう1つの連係機能である「ユニバーサルクリップボード」を使うと、iPhoneで撮影した写真を「コピー」して近くに寄せて作業するiPadのクリップボードに追加。iPadで作成中の企画書ファイルにすばやく「ペースト」できる。
「アップルがデバイス連係を設計する際に最も強く意識するのは、ユーザーが面倒な設定を意識することなく直感的に使える機能を提供することです。私たちチーム内ではこの体験を『Automagic(オートマジック)』と呼んでいますが、同様にすべてのデバイスのユーザーがさまざまな場面でAutomagicに触れられるエコシステムをつくることが、私たちがアップルのハードウェアとソフトウェアの融合を強くする理由なのです」とボーチャーズは語る。
日本のユーザーはiPadの「多様性」をうまく活用している
ボーチャーズ氏は2008年にアップルが発売した初代iPhone 3Gの立ち上げにも携わった人物だ。その後一度アップルを離れるが、数年前から現職に復帰した。12年間に渡るiPadの成長をアップルの内と外の両側から見つめてきたボーチャーズ氏に、米国と日本のユーザーではiPadの使い方に独自の傾向や個性が見られるのか訊ねた。
「日本と米国のユーザーは違いよりも共通点の方が多くあると私は思います。例えばユーザーが独自に見つけたユニークな使い方を、徹底的に極めようとする探究心を共有しているといえるでしょう。一方、日本では多くのユーザーが、例えば華道のように古来の伝統的なアートを創作する手段としてiPadを積極的に活用している姿が私にはとても印象的に映ります。かたや、マンガやアニメーションのような新しいアートの創作にもiPadが活用されています。このような多様性はやはり日本のiPadユーザーに感じる特徴だと思います」
Apple M2チップを搭載するiPad Proの新しい「Apple Pencilのポイント」機能。第2世代のApple Pencilをディスプレイから12ミリまでの高さに近付けると、ペン先の位置が検知されて、画面上に描画のプレビューが表示される。iPadOS標準の「メモ」や写真の「Procreate」などサードパーティーのアプリにも今後対応が広がる