スタートアップのエコシステムビルダーが集った同イベント。パネルセッションでは、Sozo Venturesの共同創業者マネージングディレクターで、スタンフォード大学でも教鞭をとるフィル・ウィックハム氏が登壇した。
また東京工業大学の研究・産学連携本部・イノベーションデザイン機構で機構長を務める辻本将晴氏もスピーカーとして登場。辻本氏は「GTIE」を立ち上げた人物でもある。
CIC Japan合同会社のディレクターである名倉勝氏を進行役に、「大学発スタートアップ育成・創出におけるアメリカと日本の違い」をテーマに語り合った。
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名倉:はじめに議論したいのは「大学は、教育・研究や論文、大企業との共同研究など、複数の目標がありますが、そのなかでスタートアップがどう正当化されているのか」についてです。フィルさん、日本の大学とスタンフォード大学の違いも交えながら、考えをお聞かせください。
フィル:まずスタンフォード大学に関して、誤解があると思います。一元的にスタートアップを管理する仕組みがあるとイメージされがちですが、実態は正反対です。スタンフォードは開かれた大学で、多くの発想が生まれる場です。その発想を持っている学生や教授、外部の人たちを繋げていく仕組みになっています。
実は、私が早稲田大学で教鞭をとった1年目、生徒たちに円卓のように丸く座ってもらうように提案したことがあります。上から目線で話すのが嫌で、教壇に立たずに歩きながら対話し、生徒も多種多様な質問を頭の中に描きながら、思考を巡らせてほしいと考えていました。
ところが、当時の早稲田には備品を移動してはいけないというルールがありました。そこで私は「備品の移動が禁止なのであれば、残念ながら教鞭はとれません」と話し、ルールを変えてもらいました。
このエピソードを話した理由は、大学や企業、政府は意図を持ってスタートアップを醸成する環境を整備しようとしているものの、それは間違いだと指摘したかったからです。やるべきことは、障壁をとにかく減らすこと。そして、自然とスタートアップが開花できるような場を整備することです。
現在もスタートアップの支援や破綻を防ぐ仕組みなどが考えられているものの、そこにプラスして、人を繋ぐネットワーキングを考える必要もあります。ネットワーク効果は大きく、政府ではなく大学が率先して取り組むGTIEのような実験的な試みが重要と言えます。
名倉:辻本さんは、現場にはまだ障壁があるという感覚はありますか。
辻本:はい。最大の障壁は、心理的バリアだと思います。大学では誰もが研究への集中をミッションと考えているため、スタートアップを立ち上げたり、そこから利益を得ることに抵抗があると言えます。
東京工業大学の辻本将晴氏
そういった感覚を変えていくことは当然重要ですが、どうすれば変えられるでしょうか。