経済産業省の「大学発ベンチャー実態等調査」によると、2004年度に1000社を突破し、17年度には2000社に、そして20年度には2905社に上るという。
出典=経済産業省「大学発ベンチャー実態等調査」
一言にスタートアップと言ってもそこで誕生してきた企業は多種多様だが、目下注目を集めるのが、「ディープテック」領域だ。ディープテックとは、半導体や量子コンピューター、宇宙開発、創薬、AIなど大学で研究される高度な先端技術で、これらの研究成果をベースに事業化する企業が増えてきているのだ。
そしていま、この領域の成長を加速させようと、複数の大学で連携しエコシステムを構築する機運が高まっている。
2021年3月にまず動き出したのは、東京工業大学、慶應義塾大学、東京医科歯科大学、東京大学だ。4大学が立ち上げたのは「イノベーションデザイン・プラットフォーム(IdP)」。ビジョンとして「世界を変える大学発スタートアップを育てる」を掲げ、「参画機関によるスタートアップ時価総額総計5兆円」を目指すプログラムだ。
具体的には、公募のうえ採択した事業に対し、試作開発・テストなどにかかる費用を提供(ギャップファンド)したり、起業家のメンターとして伴走したり、「東工大のAI技術、東京医科歯科の医療画像、外部の経営人材を繋ぐ」ような大学間での情報・人材共有を行っていく。
こうした活動が進むなか、早稲田大学や筑波大学など、首都圏の他大学等でも同様の動きがあったことから、今年1月にはIdPを拡張した「Greater Tokyo Innovation Ecosystem(GTIE)」が始動。東工大、東大、早大が主幹事となり、計13大学が参画する。
活動拠点は、全国の大学が、教育や研究、産官学連携を推し進める場としてオフィスを置く、東京工業大学の「キャンパス・イノベーションセンター(CIC)」だ。
東京工業大学キャンパス・イノベーションセンター(提供=東京工業大学)
Forbes JAPANでは「大学発ディープテック 新時代」と題した短期連載で、大学発スタートアップを取り巻くエコシステムの課題や展望、事業化に乗り出した企業の取り組みなどを紹介していく。
第一回は、東工大教授でありIdPおよびGTIEのプログラム代表でもある辻本将晴に話を聞いた。機運が高まる今に至るまでには、紆余曲折があったという。
「研究は金儲けのためではない」
経営を専門とする辻本が大学発スタートアップに関わり始めたのは2004年頃。経産省所管の「産業技術総合研究所(AIST)」で、ベンチャー企業の研究にあたり、本の執筆やAISTが持つ技術を事業化するプロジェクトも担当した。
その後、東工大で約12年間技術経営専門職学位課程の教員として教鞭を取ってきた。学生の多くは社会人で、日立やソニーなど有名企業の研究開発部門所属の学生もおり、研究内容を事業化するにはどうするべきか、議論・研究してきたという。
IdP、GTIEのプログラム代表 辻本将晴
当時から、特にディープテックにおけるこのテーマに向き合ってきた辻本は、かつては大学発スタートアップに「期待していなかった」と話す。