資金に関して、辻本は海外との違いにも言及する。例えば、アメリカの大学は寄付額が大きく、スタンフォードやハーバードでは、その時々の社会の重要トピックに対して寄付が集まり、そのお金で人材やスタートアップを育成する。民間から多大なお金が流れるというわけだ。
「また、アメリカの大学には、高い交渉力や営業力を持つファンドレイザー(資金調達を専門にする職業)がいます。彼らが本気で、外部に資金を取りに行くんです。
日本は、資金の流入元の多様化や、資金獲得に長けた人材確保が、後手に回っているのではないかと思います」
事業化がうまくいっても、上場などを見据えた時、「収益化」がハードルとなる。そこも乗り越えられるスタートアップの特徴について辻本は「収益モデルが確立されているかどうか」だという。
モデルを成り立たせるためには、経営陣はもとより、営業、エンジニアなどチームが不可欠だ。しかし特に大学発スタートアップでは、事業を経験したことのない教授が創業者となるケースが多いため、「教授が何でもやろうとすることが仇となることが多いのではないか」と強調する。
「ファイナンスに弱い、基礎的なマーケティングの知識もない、サプライチェーンが整ってないなど、うまくいかないスタートアップにはいろいろ問題があるわけです。
成長ステージにもよりますが、各部門にプロを招き入れられるかは大事なポイント。教授自身にその力がないのであれば、巻き込む力のある人に加入してもらうことも選択肢の一つです。体制を整えず、なんとなくできそうだと思ってやっているとやはり飛躍は難しい」
これらの課題に総合的に取り組み、アカデミア発のスタートアップを活性化させるのが、IdPやGTIEだ。チーム組成にあたっての人材マッチング、数千万円〜数億円規模のGTIEファンドによる投資、グローバル展開に向けた海外投資家の紹介などを行い、大学間の連携に限らず、民間企業やVCも巻き込んでいく。
CICには、起業イベントなどが開催されるスペース(上)やコワーキングスペース(下)がある(提供=東京工業大学)
「日本は1つ1つの大学規模が小さい。分野が偏っている大学も多々あるので、各大学内で蓄積されている技術や知見を、外部の大学や機関と組み合わせ、民間の力も借りながら、循環するシステムを作っていきます」
GTIEは2025年度までのプログラムだが、ゆくゆくは首都圏に限らず、名古屋や関西など各地の同様のプログラムをつなぎ、全国ネットワークにしていくという構想もある。
果たして数年後、どのようなエコシステムが構築され、いくつのユニコーンが誕生しているだろうか。