「2005年に全国で大学スタートアップ研究調査を行いましたが、正直、たいていの場合、事業化は無理だろうと思いました。教授は研究に長けているわけで、マーケットと結びつけられる人は少ない。例えば研究費が降りてきても、事業化ではなく研究者の人件費に消えてしまうんです。
また産学連携を持ち出しても、教授や研究者は『怪しい』と懐疑的で、『研究は金儲けではなく人類の未来に貢献するためのもので、事業化など目的を履き違えている』といった意見が支配的でしたね」
民間を巻き込み、学内に変化
ではそこから機運はどう変わっていったのか。
「私の肌感覚ではありますが、2007年あたりから、特に東大が大学発ベンチャーを育てることに熱心になり始めたと記憶しています」
東大が取り組んだのは教育だ。
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「アントレプレナーシップ教育、スタートアップ支援、産学連携の強化など、大学改革に試行錯誤していました。なかでも教育が進んだ要因は、大学の人だけでやろうとしなかったことでしょう。
だいぶ後の話になりますが、2016年設立のVC『東京大学協創プラットフォーム開発』や、2019年にできた、研究者向けに助成金支援などを行う『FoundX』にも見られるように、外部の投資家を巻き込んでいます。
民間での経験のある人たちに、学内で自ら組織を作ってもらいルールを変えてもらうなかで、東大は変化していったのだと私は見ています。
東工大も10年以上アントレプレナーシップ教育に取り組んでいます。ポイントは、大学側が決して丸投げするのではなく、実務家からアドバイスをもらいながら自らカリキュラムを作って改良し、日々学生の反応を見ながら進めることだと思います。」
最近では、東工大でも、工学系の学生から起業の相談をされたり、ビジネスプランコンテストが行われるなど、「ここ数年で東工大全体の雰囲気が大きく変わってきていると感じる」という。
2022年4月には、起業を支援する「イノベーションデザイン機構」が新たに立ち上がり、辻本が機構長を務める予定だ。
資金調達や収益化に課題も
ただ課題は山積み。資金調達や収益化、またそれにともなって必要となる人材の確保などが挙げられる。
「ディープテックの事業化・収益化には、総じて、半端じゃないお金がかかります。数千万円レベルではできることが限られていて、特に生命科学系だと必要額が大きく、国内では賄いきれないので海外に出資を求めにいくという話も聞きます。
また、いくら技術力やマーケットにポテンシャルがあっても、事業化まで10年かかるとなれば、特に民間は出資を渋ります。ファンドには基本的に10年という期間もありますしね」
IdPやGTIEが提供するギャップファンドは、一般的なVCが入るよりだいぶ前の段階となるため、「当然ですが、事業の拡張性などが予測不可能でリターンが返ってくるかは読みにくい」という。