日本の「足かせ」は無くなってきた
───1998年に初来日した時と今回の来日を比べて、日本について印象に変化は?
私はこれまでシンガポールや欧州に居住し、今はニューヨークを拠点としていますが、その間様々な日本のブランドと仕事をする機会がありました。その時と比べて日本のブランドはあらゆる面で世界的な影響力を見せていると思います。
日本の文化で非常に感心するのは、親しみやすさと伝統という2つの相反する側面を持っているという点です。それが独自のユニークさを生んでいるんだと思います。ですが、ビジネスの視点から言うと、その独自性がスピード感をもって世界で競う上での足かせになっているのではないでしょうか。
しかし、今回の来日でお会いしたお客様を通じて、変革が今まさに起きているということを感じましたし、新たなアイデアや強い上昇志向が生まれていると感じました。世界が急速に変化しているので、より速いスピードで行動し競争に優位に立つには、企業独自のブランド体験や顧客体験を生み出すクリエイティビティが重要になります。日本でも、スタートアップ企業がクリエイティビティを活用して、市場に大胆な変革を起こしているケースも出てきています。
───デザイン経営という発想が従来型の事業運営を脱却する上で一種の流行になっています。デザインの力を活用して、ブランドの構築やイノベーションの創出を実現する経営手法です。クリエイティブ×ビジネスの融合と最も大きく違う点は?
両方とも重要ですが、若干意味合いが違うかと思います。ビジネスにおけるクリエイティビティとは、描きたい未来や解決したい課題を実現するためのアプローチです。一方、デザイン経営とは、クリエイティビティを発揮しやすい組織づくり、組織の活性化を指しています。働きやすさやアイデアや想像力が生まれる環境といった働き方改革につながるものです。前者がアイデアを、後者は人を視点に考えた手法だと言えます。
将来的には、両方の要素を取り入れた企業が成功を収めるのではないでしょうか。もちろん、アカウンタビリティと仕組みがあることが前提です。そうでなければ、クリエイティビティもデザインもうまく機能しません。
コロナ禍によって米国でも欧州でも働き方は大胆に変化しました。人々は会社の歯車の一つになって働くのではなく、自身の成長のために働きたいと考えるようになったのです。企業はそうした環境を創り出す必要があります。
アクセンチュア ソングで経営幹部職1700人以上を対象としたアンケート調査を行ったのですが、95%が顧客や社員のニーズの変化は企業の変革スピードよりも速いため、その変化に合わせていくのはほぼ不可能だと回答したのです。誰のために、何を作るのかといったことも含め、彼らの価値観や行動が常に変化しているのです。企業はそうした変化に柔軟にかつスピーディーに対応していかないといけません。
変化の激しいなか成功する企業や事業に不可欠な要素は、他社との差別化を図ることができ、顧客の生活に価値を付加し、さらに人々や社会全体に貢献することを考えることのできるクリエイティブなマインドです。「これならできる」という視点ではなく、「こうなるといい」、「こうあるべきだ」と思う自分のアイデアを起点として、何ができるか、何をすべきか考えることのできるクリエイティブな人々が触媒となって、企業変革が起きるのです。