アップルの黒歴史、U2のアルバム「無料配布」が大失敗だった理由

Getty Images / U2

2014年にロックバンドU2がiTunesユーザー向けにアルバムを無償配布した際、リーダーのボノは、多くのユーザーがそれを歓迎すると考えていた。彼は、iPhone 6が発表された新製品発表会の基調講演で、アップルのティム・クックCEOとステージに上がり、そのキャンペーンについて説明した。

しかし、結果はボノの期待を大きく裏切っただけでなく、初期の地図サービスの「マップ」や1988年にリリースされたMac用の丸いUSBマウスと並んで、アップル史上最大の失敗の1つとされた。

この出来事は、ボノの回顧録「サレンダー:40ソングス, ワン・ストーリー(Surrender: 40 Songs, One Story)」の出版を前に、再び脚光を浴びようとしている。

U2が2014年にリリースしたアルバム、「Songs of Innocence」は、アップルミュージックがまだ存在しない時代に、iTunes の全ユーザー向けにまるごと無料で配布された。しかし、当然ながら、その当時5億人のiTunesユーザーの全てがU2のファンだった訳ではなく、ユーザーの意志とは無関係にアルバムが自動的にダウンロードされる仕様を腹立たしく思う人も多かった。

しかも、このアルバムのデータはiTunesで非表示にすることはできても削除は不可能で、ハードディスクの容量を勝手に消費するため、多くのユーザーから苦情が寄せられた。

アップルによるこの失敗は、2009年にアマゾンがユーザーのキンドルからジョージ・オーウェルの作品を削除した出来事に似ている。アマゾンは、ユーザーが購入した電子書籍版「Animal Farm」の一部バージョンを、無断で削除したのだ。

同社はさらに、オーウェルの代表作「1984年」の一部バージョンも削除した。国家による思想統制について描き、独裁者を意味する「ビッグブラザー」という言葉を生み出したこの小説をキンドルから無断で削除することはいかにも皮肉であり、大きな批判を浴びた。

アマゾンがこうした対応を取ったのは、版権を持たない企業によるデジタルコピーを販売していたことが発覚したためだ。同社は、直ちに対応のまずさを謝罪したが、アップルの場合は、2014年9月にアルバムを削除するための専用ツールを提供した。
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編集=上田裕資

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