しかし、日本においてはまだまだウェルビーイングビジネスの成功事例は限られています。
米国のウェルビーイングサービスはなぜ急成長しているのか? で説明したように、米国でウェルビーイングビジネスが急成長した理由の一つとして、日本とは異なる健康保険制度があげられます。
民間保険中心のアメリカでは、自己負担分を支払う個人、保険負担部分を支払う企業、そして、保険請求に対して保険適用分を支払わなければいけない保険事業者の3者が皆、高額な保健医療に悩まされており、医療費の抑制が切実な課題です。なかでも深刻なのが、年々増加の一途をたどっている民間医療保険の多くを負担している、企業(雇用主)です。
そこで企業が注目したのが、従業員が心身の健康を保つための遠隔メンタルヘルスケア、瞑想アプリなどのさまざまなヘルスケアの延長にあるソリューションです。
顧客との関係を「リデザイン」する
では、このように企業がリードする市場環境がない日本ではどう市場を創造していけばいいのでしょうか?
体・心・社会との関係という3つのウェルビーイングの性質から、日本においてブレイクスルーとなるのが、顧客と製品やサービスの関係を捉え直す、「関係性のリデザイン」と私が呼ぶアプローチだと考えています。それにより、さまざまな業種・業態の企業がウェルビーイングビジネスに参入することが可能になります。
「関係性のリデザイン」とは、まったく新しい商品やサービスをつくり出すのではなく、自社の既存の商品やサービスに関して、“顧客との関係性を再定義する”ことで新しい価値を見出すことです。新しい価値が生まれることは、新しい市場が開拓されることを意味し、今までとは違う顧客層にリーチする可能性を広げます。
9月に発売した書籍「ウェルビーイングビジネスの教科書」でも、「関係性のリデザイン」を紹介している
例えば、お酒における「関係性のリデザイン」は、次のようなものになります。
お酒(アルコール)は過度に飲みすぎると、肝臓や心臓、消化管、脳の疾患につながり、睡眠障害やうつ病などの心の病を引き起こすこともあります。その観点からすると健康に良いヘルシーな製品とは言いがたいです。ウェルビーイングを構成する“体”の側面では、その範疇から外れるでしょう。
しかし、お酒を介して人と接することで、“愛情ホルモン”と呼ばれる「オキシトシン」が分泌され、共感力が増したり、ストレスが軽減されたりする。そうした社会的、精神的な面では、ウェルビーイングな製品と位置付けることができます。
すでにアメリカでは、リデザインすることでウェルビーイングビジネスに参入しているお酒のブランドがあります。アンバイザー・ブッシュ社が生産・販売するビール、「バドワイザー(Budweiser)」です。