ウェルビーイングの概念が、体と心、そして社会との関係という広範囲をカバーするので市場を明確に定義するのは難しいのですが、顕在化しているところでわかりやすいのは、アメリカのウェルネス産業です。
750兆円のポテンシャル
対象となっているのは、ウェルネスツーリズム領域やフィジカルアクティビティ、予防医療・公衆衛生関連などのヘルスケア産業まわりになります。GLOBAL WELLNESS INSTITUTEの調査によると、その市場規模は、2020年時点で4.4兆ドル(約600兆円)になります。
同様の枠組みでみたときの同年の日本の市場規模は、12.5兆円(予測)ですから、アメリカがかなり先行しているということができるしょう。
さらにアメリカでは、睡眠、マインドフルネス、瞑想などに関するテクノロジー領域を指すトランステックが「ウェルビーイング・テクノロジー」へと名前を変え、産業としての規模を拡大しようとしています。
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2020年には、ウェルビーイング分野へのスタートアップに対する投資は1兆円を突破。企業向け遠隔メンタルヘルスケア、瞑想アプリ、ビデオ診療など、投資を受けた企業は350社を上回り、5年前より2割以上多い水準になっています。アメリカにおいてこの領域は、すでに成長モードに入っているといえるかもしれません。
ただし、ウェルネス産業はウェルビーイング市場の一部にすぎません。世界中の人たちのウェルビーイングを実現するためのアイデアは、既存のヘルスケアの延長にあるウェルネス産業という枠組みを超えていくらでも出てくるはずです。
たとえば、私たちの心を豊かにしてくれるエンターテイメント産業や家族や友人との食卓を支える外食産業などは、ウェルビーイング産業の範疇に入ると言っていいでしょう。これらの周辺産業を加えると、市場は750兆円規模にも広がるのではないかとも言われています。
日本においても、博報堂のHakuhodo Alliance Oneチームが調べたところ、ここ3年前後で起業したスタートアップのうち約10~15%がウェルビーイング・テックだと分析されています。