iPad片手に森で授業、伊那市がICT教育で成功した理由

iPadを使った教育の良い点は何より子ども自身が楽しめることだ


「iPadを使うことで、教師と児童の繋がりはより深くなりました。以前は課題の完成しか目にすることができませんでしたが、現在は途中経過も確認できるため生徒たちのケアもしやすくなりました」と担当教諭の塚平さんはいう。

従来の教室では「手を上げて答える」ことが普通で、どうしても消極的な子どもは見過ごされてしまいがちだ。しかしiPadを使う場合、課題の提出と確認がすぐにできるため「手を上げずに隠れてしまう」ようなことはない。また、紙のノートを使っていた場合、子どもたちが何を書いていいかわからずにそれが真っ白でも教師は把握できないが、iPadはデータが共有されるためそんな状況も防げる。このようにして「誰も取り残されない学び」が実現する。



伊那市のICT教育を支える教育委員会


伊那市がICT教育を開始したのは2014年。最初は地域素材を使ったデジタル教科書を活用するだけだったが、ブラッシュアップを重ね現在のかたちにたどり着いたという。

「伊那市には昔から、子どもたちを地域で育てていこう、探究的な学びをさせようという教育的な土壌がありました。例えば地域素材として、伊那市の自然や地層を独自に調べて教材を作る取り組みを地元教師が昭和36年頃にはすでにやっていたんです」と教育委員会の足助さんはいう。

iPadは、この教育的な土壌に寄り添うかたちで導入されていった。

「学校の前にある崖から火山灰を採取し、水でよく洗った上で顕微鏡で観察を行うこともあります。どの部分を観察しているのか、顕微鏡をのぞく児童しかわからないため、高価な顕微鏡用カメラを購入し、ディスプレイに映して共有していました。しかしiPadがあれば、顕微鏡の接眼レンズ部分にそのカメラをつけるだけで今、何を見ているか教師も他の生徒も把握することができます。伊那市では「Summer Camp in いな」というイベントを開催しています。その際、子どもたちはiPadを持って森に入ることになります。これはカメラとビデオカメラ、編集機器も持っているということで、iPadでなければ難しいことです。伊那市では導入当初から、こうした活用方法を見据えてiPadを選んできました」

ICT教育は、予測不能な時代を生き抜くための深い学びや課題解決力を身につけさせることが目的だ。伊那市で行われている授業は、ただ「学習にiPadを使いましょう」というものではなく、森という環境とiPadを組み合わせることで「生きた教育」になっており、ここで得た深い学びや課題解決力は子どもたちは大きな糧になるだろう。

編集=安井克至

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