iPad片手に森で授業、伊那市がICT教育で成功した理由

iPadを使った教育の良い点は何より子ども自身が楽しめることだ

中央アルプスの山麓にある長野県伊那市・伊那西小学校は、昭和25年に開校したのどかな雰囲気の小学校だ。しかし、同校は特色ある教育環境を活かした小学校として、校区を超えて入学・転校が認められる小規模特認校の指定を受けている。

その特色の1つが「森の教室」だ。学校に隣接した森は「学校林(がっこうりん)」と呼ばれる70年もの間、学校や地域で守ってきた森だ。そこにはイスと机だけでなく、プロジェクターとWi-Fiが用意されている。児童はそこにiPadを持って集合し、授業を受ける。この日は小学5年生の児童が英語学習を行なっていた。

テーマは自己紹介。事前に英文を組み立てて、読み方の練習もしてから、それぞれiPadを持って、2人1組で森の中へと走っていった。自然を背景に自己紹介ムービーを撮影した後は、森の教室でClipsを使って編集。筆者は日本の小学校をいくつか取材してきたが、このような光景は初めて目にした。

「小学校3年生・4年生の授業では、蝶の幼虫を飼育し、タイムラプスで蛹化と羽化の撮影に成功しました。撮影後は幼虫の動きに合わせ、ClipsでコミカルなBGMとスタンプをつけて編集しました。また、森を舞台にiMovieとClipsで映画を作り、全校児童に発表したこともあります。時間帯で変化する森の風景を活かして撮影したり、動物を手描きで書き込んだりと、子どもたちも楽しんだようです」

iPadを使った教育の良い点は、子ども自身が楽しめること、そして共同制作が行いやすいところだ。板書と記憶を強制される従来の学習より、子どもたちが憧れるYouTuberのように動画を作る・撮影するクリエイティブな作業が勉強の一環となっている方が、楽しいに決まっている。また、結果を発表して、評価される喜びもあるだろう。授業で作られた動画はデータであるため、古びてしまうこともなく作品として残り続けやすいというメリットもある。



誰も取り残されない


伊那西小学校の卒業生多くは、同地区にある伊那中学校に進学する。同校では1人1台のiPadが与えられるが、アカウントが小学校と中学校で共有され引き継がれる。実は伊那市では、市の教育委員会がMDM(モバイルデバイス管理)でiPadを一括管理している。学校単位で管理で生じてしまう教師の負担を軽減するために市で引き受けているのだという。

伊那中学校の理科の授業では、物体の運動に関する実験を行っていた。無料で提供されているApple(アップル)純正のアプリを3つを活用しており、Numbersで実験データの共有を、Pagesで考察などをまとめるワークシートをデジタル化し、Keynoteでイメージを共有、説明のための動画を作っているという。
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編集=安井克至

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