本に書かれていることを生徒に覚えさせるようなメモリーベースの教え方も行われていない。前述のロード博士は、「科学では覚えなければならない知識がたくさんありますが、それは生徒が自分で調べられること。問題はその知識をどう解釈してどう適用するか。そんな思考に力を入れてほしいので、記憶する作業は少ないほうがいいのです」と話す。
実際、本に書かれていることは時代遅れの内容もあり、そこから得られる知識では新しい内容を理解できないことも懸念されるという。
ロード博士は遺伝子編集のような、いま世界が注目しているトピックにもフォーカスしている。遺伝子編集は生徒たちが将来現実的に直面する可能性がある問題を抱えているからだ。
IQよりも「知識欲」を重視
授業のクオリティ維持にも余念がない。教師たちは週1回、親や生徒とSlackでコミュニケーションを取り、話し合いを行っている。また、教師や生徒が授業に適していないとわかったら「いま、チェンジする」と迅速に軌道修正することも重視している。
現在、同校ではフルタイムの生徒とパートタイムの生徒を合わせて総勢175人が学んでおり、多くが、通常の学校やホームスクーリングとかけもちしている。入学試験もオンラインで行われ、コナンドラムに答えてもらったり、半日体験をしてもらったり、家族面接を行ったりして合否を決定している。
「学ぶことが好きかどうか、チームワークが多いことから親切かどうか、自立心があるかどうか、この3点を生徒を選ぶ際の判断材料にしている」とダーンは話す。“IQが高い我が子にとっては通常の学校が退屈だから”という理由で応募してくる親もいるというが、IQの高さよりも“知識欲”が重視されているのだ。
授業料は3万2500ドルとアメリカの私立大学並みだが、同校は、家庭の経済状況を評価して授業料を決めるサービスを行う専門機関が提示する授業料を採用しているため、約半数の生徒がより安い授業料で受講している。なかに授業料がゼロの生徒もいるという。経済的支援を行うことで子どもたちに学ぶ機会を与え、学校に多様性のある考え方を取り入れようとしているのだ。
ダーンのゴールは同校で行われている実験的教育を世界に広めること。例えば、コナンドラムは世界最大の教育アプリ「クラス・ドージョー」とパートナーシップを結び、世界にシェアされている。
「我々が目指しているのは、アストラ・ノバにできるだけ数多くの生徒を入れて学校を大きくすることではなく、学校での体験を通して優れたアイデアを見つけ、それをシェアして広めてくれるパートナーを見つけること。そうすることで教育に変革を起こしたい」
ジョシュア・ダーン◎アストラ・ノバ共同創業者、シンセシス共同創業者。ティーチ・フォー・アメリカなどでギフテット(天才児向け)教育に携わったのち、イーロン・マスクと共に「アド・アストラ」を創設。20年より現職。
ローズマリー・ロード◎アストラ・ノバ共同創業者兼科学担当ディレクター。カリフォルニア工科大学で化学博士号、バイオテクノロジーの研究所も運営。2015年よりアド・アストラの科学担当ディレクターとして教育に参画。
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