16年になると、カールソンはアームストロングとアーサムに、コインベースを退職して暗号通貨のヘッジファンドを設立すると伝えた。「コインベースは僕がいようといまいと、おおむねそのままの道を歩み続けていくと悟ったんだ。新たな事業を立ち上げれば、あの超高レバレッジな感覚をまた味わえると思ってね」。
偶然にも、現在のDeFiブームをあおっているのもレバレッジだ。資金調達の観点からは、DeFiはICOの後継に当たる。16年と17年に実施されたICOの大半は質が悪かったにもかかわらず、投機家たちは何百もの内容の疑わしいプロジェクトに投資した。こうした暗号通貨の大多数は、悪い株よりなお悪い。情報開示はほぼ皆無で、投資家たちは実質的に持ち分や議決権をもたなかった。そして、 何十億ドルもの資金が失われた。
DeFiは、こういったICOの改良版という位置づけだ。というのも、投資家たちは、自分の資金を、通常はイーサかUSDコインなどのステーブルコインの形で、P2Pネットワーク上で他人に貸し出すだけだからだ。運用ルールはスマートコントラクト(契約の自動化)に記され、イーサリアムのブロックチェーンに埋め込まれている。暗号資産を貸し出すことにより、DeFi投資家たちは多額の収入を得る。「イールドファーミング」と呼ばれる手法を使うのだ。
仕組みはこうだ。例えばある人が、1万ドル分のイーサを保有しているとしよう。それを、利息がつかないデジタルウォレットに入れておくのではなく、コンパウンドのようなDeFiプラットフォームに預けることで他の誰かが一定期間借りられるようにするのだ。すると引き換えに、年間最大30%もの利息を稼ぐことができる。
それだけではない。コンパウンド独自のトークンで、同プラットフォームのネイティブ資産であるコンプ(COMP)を報酬として受け取り、同ネットワークの運営管理に関する議決権と発言権を付与されることにもなる。また、コンプは活発に取引もされている。20年6月の配布開始から21年半ばまでのあいだに、その価値は65ドルから800ドル以上に急騰。先の暗号資産市場の暴落を経ても、トークンの配布開始から約90%の価格上昇を実現しているのだ。
さらに、コンパウンド上でイーサを貸し出す見返りに与えられるコンプを、今度はユニスワップなどの取引所に預ければ、同様に利子と別の無料トークンを稼ぐことができる。ユニスワップの場合はユニ(UNI)だ。次はそのユニをスシスワップに預ければ、その独自トークンであるスシ(SUSHI)を稼ぐことができる。
──まるで錬金術だ。この1年間のユニスワップやスシスワップなどのDeFiプラットフォームの月間平均取引高は500億ドルを超える。しかし、これが銀行の融資が通常使われるところ、例えば企業の事業拡張、もしくは住宅購入にさえ、使われている形跡はほとんどない。
そしてDeFiは常に順調というわけでもない。ブロックチェーン分析のチェイナリシス(Chainalysis)の試算によると、21年に盗まれた32億ドルの暗号資産のうちの72%はDeFiサイト経由だった。また、20年初頭、パンデミックにより市場が急落した際、DeFiプラットフォームのメーカーダオは800万ドルの損失を被った。イーサ価格が55%下落したことを受けて、プラットフォームの基本ソフトウェアが1200のイーサ担保付き債務ポジションを清算したためだ。