数字を日々微修正する
超予測者は、頻繁に考えを変えることをいとわない。ただしそれは、毎日のようにそれまでの考えを180度根本から変えるといった類いのものではない。
新しい情報を得るたびに、少しずつ考えを修正していくのである。
最高レべルのスコアを誇る超予測者、ソフトウェアエンジニアのティム・ミントの場合、通常、期間内に少なくとも10数回、多いときには40〜50回も予想を修正している。
次ページの図は、「2014年4月1日時点で、国連難民機関が報告するシリア難民の数は260万人を下回っているだろう」という命題に対するミントの確信度を示している。
各点は、3カ月のあいだにミントが予測を修正したタイミングを表している。
ミントが進路を微修正しながら進んでいることがわかる。
誰でも、ある状況下で自分の考えを少しずつ変えていくということを日ごろから行なっているものだ。
就職活動を例にとろう。
応募書類を送った段階では、最終的に内定を得られる確率を5%程度と見込んでいたとする。書類が通過して面接の通知が来たら、その予想は10%に上がるかもしれない。
テトロックとガードナー(2015)による。
面接でうまく受け答えがきて大きな手ごたえを感じたら30%に上がるかもしれないが、面接後2週間が経過したのに先方からなんの連絡もなければ20%に低下してしまうかもしれない。
このデータは使えない!
だが、政治や道徳など、賛否両論のあるテーマではどうだろう。
ジェリー・テイラーは長年にわたり、気候変動に対する懐疑論者の代表格として存在感を放ってきた。
リバタリアン(自由至上主義者)のシンクタンクであるケイトー研究所に所属するテイラーは、テレビのトークショーに出演し、「気候変動への懸念は過度に誇張されている」と世間に訴えることで大金を稼いでいた。
その懐疑心に初めて亀裂が入ったのは、ジョー・ロームという著名な気候変動論者とともにテレビ討論会に出演した直後のことだった。
テイラーは討論会で、いつもの主張をくり返した。
「地球温暖化の進行は予測されていたよりもずっと遅い。1988年にアメリカ議会に提出された当初の予測と比べると、まったくと言っていいほど地球は温暖化していない」
だが収録後の控室で、ロームから事実を誤認していると批判され、証言の裏を取るべきだと指摘された。
テイラーはその挑戦を受け、データを細かく確認した。当然、自分の主張の正当性が証明されるものだと思っていた。
だが驚いたことに、正しいのはロームのほうだった。1988年の予測は、テイラーが思っていた以上に現実に近いものだったのだ。
なにかを見落としてしまったに違いない─テイラーはそう考えた。
この情報は、同じく気候変動懐疑論者の、権威ある気候科学者から得たものだった。さっそくその科学者に連絡して説明を求めたが、その科学者は煮え切らない言葉を口にするだけだった。
テイラーは20分ほど悩んだ末、ようやく自分が信頼していたこの人物が「意図的に事実を歪めていた」ことに気づき、愕然とした。