あと10年、世界からバナナが消える? 1億トン廃棄、疫病との闘い

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バナナは、健康的で栄養素の豊富な果物として、子供からお年寄りまで年齢、性別を問わず多くの人々に愛されている。スーパーで買い物すれば自然と手に取ってしまうアイテムだが、私たち人間とバナナの相思相愛な関係も、残念ながら突然終わりを迎えるかもしれない。真菌による病気が野火のように広がっていて、今後10年の間にバナナを絶滅へと追い込む脅威となっているからだ。

「シガトカ病」からバナナを守れ


かなり前からこの切迫した未来を警告していたカリフォルニア大学デービス校の研究者らは、バナナを絶滅から守るために真菌のゲノム配列を解読し、真菌がどのように宿主植物を攻撃するのかを明らかにした。このシガトカ病と呼ばれる真菌性の病気がここまで根付いてしまったのは、バナナ農園が繁殖方法を採用しているからである。一般的なバナナ農園は、栄養繁殖を行うキャベンディッシュ種を扱っている。栄養繁殖とは、有性生殖のようにおしべとめしべから成長させるのではなく、植物体の苗条(訳注:茎と葉の総称)を植え付けて殖やす。この繁殖手法により、キャベンディッシュ種のバナナは、同一の遺伝子型を持つ実質「クローン」となり、どのバナナも同じ病気に感染しやすくなるのである。


「栄養繁殖」によって、どのバナナも同じ病気に感染しやすくなる──

産業にとっても致命的、予防費用は全コストの35%も


このシガトカ病には、イエローシガトカ、ブラックシガトカ、ユームサエ葉黒星病と呼ばれる3つの菌株がある。バナナ農園では真菌を防ぐために、高価で環境にとって危険な殺菌剤を1年間に50回もまかなければならず、非常に有害で費用と労力のかかる作業を行っている。

この真菌の蔓延により、バナナを生産する120カ国で年間1億トン、約40%のバナナが処分された。バナナ産業にとっては何百万ドルもの損害だ。この予防策はコストがかかり、バナナの生産費用のうち約30~35%を占める。ほとんどの農家はこのような金額をまかなえないので、低品質のバナナを育てるしかなく、収入も減ってしまう。

グロスミッシェル種のバナナはかつて人気の品種だったが、シガトカ病と似たパナマ病と呼ばれる真菌性の病気により壊滅的な被害を受けたことで、キャベンディッシュ種が20世紀の後半に登場することになった。


(研究を牽引するUC Davisの植物病理学者、Ioannis Stergiopoulos氏)

予防コスト削減に希望


研究者らは、まずイエローシガトカ株による病気の治療薬を、続けて残りの2つの株による病気の治療薬を発見した。観察の結果、この真菌は宿主植物の免疫システムを破壊するだけでなく、細胞壁を破壊する酵素を放出し、植物の糖と炭水化物を餌にすると結論付けた。

この結論は大きな意味を持つ。研究チームは、今後コストが今ほどかからず、より永続的な解決方法を手に入れる可能性があると考えている。

さらに、病原菌が宿主植物の代謝に合わせて代謝を変化させることも明らかになった。これは、類似した真菌性の問題を抱えるほかの植物において研究が求められている適応過程の「分子フィンガープリント」を示している可能性がある。

翻訳=上林香織 編集=石井節子

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