ハイエンド・ブランディング・プロデューサーの山田理絵が、鎌倉にある「BLACK CUBE」にハイエンドな価値を提供しているトッププレイヤーを迎え、ビジネスの高付加価値化のヒントを聞き出す対談連載。
第9回は、ジンズホールディングスの代表取締役CEOで、前橋のまちづくりを精力的に牽引している田中仁氏に、世界のリーダーから学んだハイエンドな意識や、地域貢献を通して得る豊かさについて聞いた(このトークの対談全編はこちら)。
田中:私はあまりテーマにふさわしくないような気がするのですが。
山田:いえ、田中さんの取り組みはまさに「意識のハイエンド」です。2011年に「EY ワールド・アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー」を受賞され、モナコの世界大会で起業家からいろいろな気づきを受けたのですよね。
田中:彼らは日本の起業家と全く違い、企業だけではなく個人としても、地域や社会に多くのエネルギーを使ってコミットしていました。
例えばその年に大賞をとった女性起業家は、マレーシアで孤児として育ち、中学の時に単身シンガポールに渡ってシンガポール国立大学を卒業したのですが、シンガポールには水資源がないことが問題となっていたため、海水を淡水化する研究を事業化して成功しました。そして、自分と同じような境遇の孤児や教育に恵まれない子供たちのために、多額の私財やエネルギーを投じていました。
山田:尊いですね。
田中:また、地震の被災地に莫大な金額を寄付している中国の投資家もいました。他にも南米、ヨーロッパや他の地域から来た参加者も、個人の社会貢献活動を積極的に審査員にプレゼンしていました。
それに対して、自分はアピールできることがない。大きな彼我の差を感じました。50歳を迎えるにあたって、自分以外のものにエネルギーを使いたいと、その場でなんとなく感じました。
山田:ノブレス・オブリージュという言葉がありますが、田中さんは、それをまさに体現していらっしゃいます。モナコの大会がきっかけになったのでしょうか?
田中:当初、特にまちづくりをやろうとは思っていませんでした。地域に起業家を生み出すことであれば、自分の経験を活かせるし、地域の元気につながるのではないかと考え、地元の新聞社の協力で「群馬イノベーションアワード」という地域の起業家を表彰する制度を作りました。
また、「群馬イノベーションスクール」という無料の起業塾を、早稲田大学のビジネススクールの教授の協力で開講。この2つでもかなり大変でしたが、この活動を通じて徐々に人々の輪が広がっていき、私ものめり込んでいきました。
山田:ハイエンドトラベルの世界でも、投資家や事業で成功した方々が、何らかの社会課題を解決したいという思いで、リゾートの収益の一部で地域の環境整備や文化の継承を支援している素晴らしい例を見てきました。前橋はどのような方向に行くのでしょう。
田中:前橋が日本を元気にするロールモデルになれるのでないかと思っています。日本の国全体を一気に変えるのはなかなか難しいですが、この小さな街を変えることによって、その成功例を横展開し、日本全体を元気にすることができるのでないかと最近感じています。