山田:今はどのフェーズまで行っていますか。
田中:まだ2号目ぐらいではないでしょうか。
山田:頂上はどのような景色なのでしょう。
田中:生きているうちに頂上にはたどり着けない気がします。登っている途中で人生が終わるのでないでしょうか。
山田:だからこそ登り続けると。今描いていらっしゃる青写真は?
田中:デジタル技術の活用で市民がウェルビーングを感じられるような世界観を作りつつ、建築、アート、デザイン、食などリアルな体験を通じてイノベーティブなものが生まれるような街に、前橋はなれるのではないかという手応えを感じています。
山田:具体的にはどのような取り組みですか?
田中:「まえばしID」という、総務省から安心安全という認定を受けているスマートフォンを活用した本人認証の仕組みに期待しています。スティーブ・ジョブズが社長だった時代にアップルの副社長を務め、Apple IDやiPodを作った前橋出身で、私と同い年の方のアイデアです。このまえばしIDに加盟し、利用したいという都市がすでに30以上現れています。
山田:それが横展開できると、一気にスピードアップしそうですね。
田中:このIDの基盤の上に、モビリティや医療、ヘルスケアなど多くのサービスが構築されていくととても面白い街になる。武田薬品工業の日本管掌代表も前橋出身で、ヘルスケアの領域で協力頂いています。さらに教育までも前橋から変えられないかと新しい小学校、中学校のロールモデルの検討もしています。
アートでは、日本を代表するようないくつかのギャラリーがこぞって前橋進出を計画し、あるアパレル企業は、新業態を全国に先駆け前橋から始める準備をしているなど、さまざまな動きが同時並行で進んでいます。
山田:前橋は、都心から近いようで遠く、実際に進出するにはハードルが高いような気がするのですが、どうしてそれらの方々を巻き込めているのですか。
田中:前橋はもともと生糸で栄え、立派な蔵が多い街でしたが、第2次世界大戦で全て焼失。そういう意味では、新しい価値を作ることやイノベーションが前橋には非常に合っています。また、「田中が面白そうにやってるので、ちょっとそこに乗りたくなった」と言ってくれる人もいます。
毎月2回、田中氏が自ら前橋を案内している
山田:それで本当に来てくれるのですから、やっぱりすごい求心力ですよね。
田中:自分以外の誰かに貢献したいという気持ちが、誰にでもあるのではないでしょうか。
山田:先述したリゾートのオーナーも、ハイエンドトラベルはこれからより貢献的な方向に向かう。その仕組みを作ることが、今後大事なことになると言っていました。田中さんご自身に前橋の街や白井屋ホテルを案内頂いたときに、これもハイエンドトラベルだと感じたんです。