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2022.08.23 18:00

「日本語は不利」という自覚が日本の可能性を広げる


安西:ブローデルが言うには、世の中は下層に農業をはじめとする手作りの産業があり、中層に市場における物々交換があり、上層に17世紀のオランダのような資本主義があるとしています。どれがよいか悪いかではなく、世の中は3層が統合されていて、下層が変わらなければ歴史も変わらないとしています。

この3層は、縦の時間イメージで捉えるとわかりやすく、例えばある地方にあった手作りの産業は、歴史において捨てられるのではなく、常に歴史のなかでよみがえったり、基礎になっていたりするわけです。こういった考えがより広がれば、日本の人たちもさらに自信が持てるのではないかと考えています。

中道:物事は循環すると。



安西:そういうことです。その循環から今の世の中は作られていると言えます。ところが、日本には仏教哲学の縦の時間イメージがありながら、横の時間イメージが入ってきていることで損してしまっている部分があります。

そういったことを考えながら、東京・渋谷の南平台町で藍染料の醸造家と会って話してみると、藍染は発酵で、菌にはヒエラルキーがないから全ての時間が縦軸とはよくわかると話していました。実はミュージシャンの友達に話しても、ピアノは横軸で、6弦で音を奏でるギターは縦軸だと言っていたくらいで、横と縦の時間軸は壮大なテーマとも言えそうです。

中道:なるほど。安西さんのお話には、今後の日本における可能性のヒントが隠されていますね。安西さんご自身は、今後の日本の可能性はどのように感じていますか。

安西:少なくとも、自分たちで足を引っ張っている部分を自覚し、いかにカバーしていくかということは考えるべきだと思います。

例えば、コミュニケーションにおいては、日本語そのものが不利に働いていると感じるようになってきました。

数年前にミラノ・トリエンナーレ美術館で、グラフィックデザイナーの原研哉さんとアンドレア・ブランジというイタリアのデザインの大御所が一緒に展覧会を開いたときのことです。100の言葉を選んで、その言葉にふさわしい展示をするというテーマでしたが、英語やイタリア語であれば動詞1つで済む言葉が、日本語では単語に“する”という言葉をつけなければいけないことが多くありました。特にコンピュータの言葉が多用される前世紀末以降ですね。

物事は動詞での理解が一番で、英語やイタリア語はラテン語の動詞からきているものも多いです。ビジネスでも文化でも、もとになる言葉があることは有利で、例えば「ライフ」という言葉には生命体や日常生活、人生といった意味が包括されていますが、日本語ではひとつの言葉で包括できません。

中道:生命体や日常生活、人生という単語は、それぞれ異なる意味で考えてしまいますね。

安西:そこが今の日本の人が国際舞台で活動するにあたり、足を引っ張っていると感じています。
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文=小谷紘友 編集=鈴木奈央 写真=Getty Images

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