安西:著書にも記しましたが、新しいラグジュアリーの定義は定まっているわけではなく、様々な議論を経て、今後10年ほど時間をかけて主流となる考え方が定まっていくと思います。
ただ、世界的な議論のため、「せっかくなら日本人も参加した方がいい」というのが著書の趣旨にもなります。本書で取り上げてインタビューした各国の方々の多くは30代の女性で、読者のメインターゲットも30歳前後の女性になります。
僕自身も振り返ると、30歳前後は人生を量と質のどちらで考えるかを選ぶ時期だったと言えます。新卒時はなかなか考えないことでしたが、30歳あたりで人生の質を重視するのであれば、ラグジュアリーがどのような影響を持つかを著書では示せたと思っています。
中道:僕自身、ラグジュアリーブランドの仕事経験があり、“ラグジュアリー”という言葉にマイナス面や違和感を覚えていました。ただ、安西さんはラグジュアリーという文化をいかに作っていくかに取り組んでいて、それを聞くと僕もやらなければいけないなと感じさせられました。
安西:ビジネスにおける実験に取り組んでいると言えますね。
中道:一方で同書では、「今後、“ラグジュアリー”は、高級品業界という括りではなくなり、文化と創造性に秀でた商品が入り乱れる市場になっていくことが予想される」とも記されています。その市場では、日本にも大きな可能性があると感じさせられ、僕らにも何かできるのではないかと背中を押してもらえました。
安西:先月、国際家具見本市のミラノサローネの代表にインタビューしましたが、そのきっかけとなったのが、今年6月のサローネで、アルタガンマ財団とベイン・アンド・カンパニーの女性たちが登壇したカンファレンスでした。
実はサローネの代表も30代後半の女性ですが、彼女はそのカンファレンスで、ラグジュアリーファッション系企業のホーム部門がマーケティングに多額の資金を投入してきた手法を、暗に否定しました。
ハイエンドインテリア市場の25%はイタリア企業が占めていますが、彼女は四半期の利益を追う経営ではなく、より長期的な経営を目指すべきだと表明しました。30代後半の女性がそういった発言をしたことを、僕は嬉しく感じたものです。
インテリアは比較的新陳代謝が遅い業界ですが、サローネの代表は美術大学で舞台美術を学び、なおかつ実家の家業であるインテリア業界に入っています。彼女は業界の構造も流れもすべて把握した上で発言しているだけに、大きなインパクトがありました。
中道:その流れも業界として経済が成り立っているからこそ、継続できるのでしょうね。もちろん、国からのバックアップ体制もあるかもしれませんが、日本の伝統工芸や地方創生は継続的に経済を成り立たせるのが難しく、長く続かないという現状があります。
やりたくてもできない状況を変えるためには学ぶべきポイントが多いと思い、僕らも一気に変えられなくても少しずつでも前進できればと考えています。