この制度は、図書館に自分だけの本棚を持つことができる月額制オーナーの仕組み。モノも人も出会いがデジタル化され必然的になるこの時代に、フィジカルで偶然性の高いこの制度が支持を集めている点に、筆者は“公共”の新たな可能性を感じた。
今回は、そんな「一箱本棚オーナー制度」を全国に広げるきっかけとなった、静岡県焼津市の小さな図書館「みんなの図書館さんかく」を訪れた。
誰もが参画できる仕組みづくり
元おでん屋の店舗を改装した同館は、引き戸を開けてふらりと入りやすい雰囲気。
2020年3月、焼津駅前通り商店街に開設された私設図書館「みんなの図書館さんかく」。その名前には、訪れた誰もが主人公として「参画」する場になってほしいという思いや、図書館だけでなくまちや社会に「参画」する拠点になってほしい、といった思いが込められている。
さんかくでは、月額2000円で約15冊が入る縦横2種類のいずれかの箱のオーナーになることができ、好きな本を置くことができる。利用期間内であれば、いつでも自由に本の入れ替えができて、希望すれば販売も可能だ。
15畳のコンパクトなスペースは、不思議な居心地の良さだ
館内では、オーナーたちの想いが詰まった個性豊かな選書が天井いっぱいに並ぶ。例えば、野球をテーマにした箱、けん玉をテーマにした箱などがある。現在60箱が埋まり、オーナーの継続率は70%と高い。継続する理由はこの場を通じた人とのつながりだ。オーナーの年齢層は幅広いが、50代が最も多く、箱が自己表現の場になっているという。運営が有志で行われているところからも、その熱量が伝わる。
箱ごとにテーマに基づいた選書と思い思いのディスプレイがなされている。
館長の土肥潤也氏は、設立の経緯についてこう話す。
「自宅の本棚が溢れてしまって、それをどうにかしようと思ったことがきっかけです。そこで東京の『一箱古本屋』のビジネスモデルをヒントに、図書館を開設しようと考えました。最初はそんなのうまくいくわけがないと周囲に反対されましたね。でもクラウドファンディングで試しに販売してみたら反響があり、メディアにも取り上げられるようになって」
港町ということもあってか、外からの意見に寛容な商店街の空気感も後押しになったという。同館開設以降、同商店街では新しい店舗が9軒オープンしている。エリア一帯の変革に寄与しているのだ。
また、現在は月に5件以上視察の依頼があり、「一箱本棚オーナー制度」を登用した図書館が全国に40館まで広がっている。