公共の場に必要な対話力
さんかくは“市民が作る公共”に社会実験的に取り組んでいる図書館だ。市民主体で公共に取り組む過程で、「難しさ」はなかったのだろうか。
土肥氏によれば、市民が公共的な役割を担うのは新しい動きではない。行政が成り立ってきたのも最近の話で、元々地域には、自分たちの道や公園、広場などを自治していく考え方が根付いていたという。
「よくも悪くも社会が豊かになったことで、自分たちの問題を自分たちで解決しなければいけないという意識が、市民の中に根付かなくなった。それによって対話力が弱くなってしまっています」
さんかくには多種多様な人が訪れる。日本の公共がやせ細ってしまった理由は「多くの人が“異質さ”と向き合わなくてよくなったこと」だと感じた土肥氏は、人々の「対話」を重要視している。
「基本的に、いろんな人が参画することを前提に仕組みを作っているので、日々多くのトラブルが起こります。それらを問題だと思うから大変なのです。“公共”はいかに他の人を許容できるかが肝なので、それぞれ生まれてきた環境や育ってきた環境が違うということを理解し合わないといけない。一方で、理解し過ぎようとするとしんどくなってしまうので、諦めることも大切です」
自立的な場が必要
土肥氏の理想は、小さな公共空間が街のあちこちに点在している状態だ。
「利用者の自立を考えると、居場所というのは多様にあったほうがいい。今日はあっちで明日はこっちで、と街のあちこちに居場所がないと、一箇所から脱せなくなってしまいます。だからこそ、公共空間を街のあちこちに増やしていけるように取り組んでいきたいです」
そのためには、気軽に挑戦できる機会を与えられる仕組み・環境が必要だという。さんかくでは、併設する「チャレンジスペース」を無料で貸し出しており、現在はコーヒースタンドが出店している。スペースを貸し出す代わりに図書館の店番をお願いする、という寸法だ。
一箱本棚オーナー制度を全国に広げる際にも、大切にしていることがある。マニュアルなし、フランチャイズ料なし、ライセンスフリーだ。
「公共性を考えたときに、それぞれがそれぞれの場所で自立できることが重要だと思いました。我々は『図書館の作り方講座』も実施していますが、特定のフォーマットを教えているわけではありません。ライセンスビジネスというものは自ら考えなくてもいい仕組みなので、それでは個性がなくなってしまいますから」
「一箱本棚オーナー制度」を導入している民間図書館を掲載するポータルサイト