人の体のさまざまな動きをデータ化できるホークアイの技術が、選手の能力向上に使われるのは容易に理解できるが、一方で今回、ソニーの技術がファンへの貢献、ファンコミュニティに活用されるというのはどういうことなのだろう。
「チームの方とお話しすると、勝つことが一番の目標としてあるのは当然です。もちろんそこに貢献したいという気持ちはありますが、リーグにチームが12あるとして、1チームが勝つことにコミットしてしまうと、あとの11チームは全く関係ないことになってしまう。それよりは、我々のデジタル技術やファンを獲得してきたエンターテインメントの知見を使って、ファンを広げませんかということなんです。
サッカーに興味のない方に興味を持ってもらう、たまにしか試合を観なかった方にはもっと観てもらうようになる。結果的にサッカー全体を盛り上げる、さらにはスポーツ全体を活性化する。そういうところに貢献していければいいなと思っています」(小松氏)
グループ内の様々な部門から参加・協力してくれる人を巻き込んでプロジェクトを推進するのは「まさにソニーならではの多様性の発揮」だと語る小松氏
ソニーとマンチェスター・シティとの提携の話が進んだのは、折しもコロナ禍のため世の中では様々なエンターテインメントがストップした時期に重なる。少なからず影響があったのではないだろうか。
山口氏は「コロナになったからどうしようというよりも、コロナ禍によって我々が今まで用意してきたものがより重要性を増したと考えています」と語る。
一方で、ファンの力を感じたと言う小松氏。
「スポーツなどを含むライブエンターテインメント業界は、興行収入などの面では本当に苦しかったと思いますが、一方でファンの方はずっと応援しているんです。特にサッカーを始めとするグローバルスポーツは世界中にファンが広がっていますから、むしろビジネスを広げる機会だと思いました」(小松氏)
メタバースという言葉を使わない理由
とはいえ、マンチェスター・シティほどの人気の高いクラブともなれば、多くの企業からの売り込みがあり、中にはメタバースをテーマにした提案もあっただろう。そんな中でソニーが選ばれたのは、技術に対してはもちろんのこと、エンターテインメントの部分でも期待値が高かったからに違いない。
「実は、われわれはメタバースという言葉を使ってはいないんです。メタバースを作ったあと、継続して楽しんでいただくのは相当難しい。そこでお金を使っていただくのはさらにハードルが高いんです。
人通りのないところに、ものすごいお店を構えたら人が来るかというと、そうではないですよね? メタバースは、ある意味何でもできちゃうんで、いろいろ取りそろえて“みなさんいらっしゃい!”だと雑多なお店になってしまいます。マンチェスター・シティさんとはその点でも共通認識がありました。
そして我々の場合、エンジニアとクリエイティブが一緒に行って話ができます。そんな会社はほとんどなかったと思います」(山口氏)