ソニーがマンCとの協業発表で「メタバース」という言葉を避けた理由

(c)SONY


山口氏が言うように、テレビやビデオなどの録画技術は私たちのエンターテインメントとの関わりを劇的に変えた。その技術革新を牽引してきたソニーだからこそ、このようなプロジェクトを通して描くスポーツの未来というものがあるのではないか。それはどんな世界になるのだろう。
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「サッカーにしても野球にしても長い歴史があります。そんなスポーツがゲームの世界で展開していくうちにデジタルの要素が入り、eスポーツになったりしていますが、もっとデジタルネイティブな今時の楽しいスポーツが現れても良いんじゃないかと個人的には思っています。

今、映画でも音楽でもどんどん尺が短くなっていて1本2~3時間の映画より、1話20分のエピソードを10話といったスタイルのエンターテインメントが増えている。観る方が忙しくなっているので細切れで観られるものの方がウケるのでしょう。スポーツも広い土地がないとできないとか、都会の子供の場合は公園でバットを振ることもしにくい環境になっています。

だとしたらスポーツも今の環境に合わせて、デジタルネイティブな人たちが楽しめるものができたらいい。それには、スポーツだけゲームだけを観るのではなく、もっと別な視点が必要になってくる。それを我々が提案できたらいいですね」
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自由に体を動かせる人、スポーツをする人だけのためではない未来


冒頭に話が出たホークアイのシステムは、専用のトラッキングカメラで撮影された試合映像から選手やボールなどの動きを捉え、ミリ単位の正確性で迅速にプレーデータを収集するもの。類似のテクノロジーと一線を画すのは、プレーする人の骨格情報が得られることなのだそう。

ホークアイのトラッキングシステム
ホークアイのトラッキングシステム(c)SONY

「ホークアイのシステムでも活用されている“姿勢推定技術”は、実はスポーツをする人だけではなくて、体が不自由になった方のリハビリにも利用されようとしています。健康を維持する上で、体を動かすのが大事なことは皆さんご存じでしょう。スポーツなどに取り組んで自由に体を動かせる人は、そうすればいいんですが、高齢者や体に障がいのある方にはハードルが高いです。

そういう方々にも“姿勢推定技術”を使って、医師や理学療法士とコミュニケーションをとったり、ユーザー同士対話して一緒に盛り上がったりすることができれば楽しいし、健康も促進できていいんじゃないでしょうか。そんな在宅リハビリ支援サービス“リハカツ”という取り組みも始まっています」(山口氏)

スポーツの未来は、スポーツが自由にできる人だけが描けばいいというものではない。人が思うように体を動かし楽しむことを広義のスポーツと捉えれば、どんな人も周りの人と体験を共有しながら楽しめるスポーツの未来が、ソニーの技術によって実現する日は近そうだ。

ITをはじめとして、デジタルテクノロジーは進歩の速度をどんどん速めている。ただ、取材中にも話題になったように、こんなことができる、あんなことができる...から始めても、本当に楽しいものはできないような気がする。

山口氏、小松氏があえて“メタバース”という言葉を使わなかったことには、本当に人々の役に立つもの、人が心から楽しめるものを作りたいという矜持を感じることができた。

文=定家励子(パラサポWEB) 写真=吉永和久

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