テクノロジー

2022.08.10 10:00

設計士が明かすイスラエルのサイバーセキュリティ・エコシステム


井関:技術的な基盤はあったのでしょうが、とはいえ、当時のEMCはサイバーセキュリティよりも、ストレージ機器開発の印象のほうが強いです。ハレルさんのチームが、同社のサイバーセキュリティの思考や戦略づくりに寄与したのでしょうか。
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ハレル:Dell EMCは世界的企業ですから、私たちのグループがDell EMCにサイバーをもたらした、というのはさすがに気が引けますね(笑)。それでも当時のEMC社内で、サイバーの重要性や、そのソリューションについての議論を促したのは、私たちのグループが最初だと断言できます。Dell EMCがサイバーセキュリティの分野で先頭に立つようになったのはそれからです。

井関:エルサレムには官公庁がそろい、テルアビブにはテクノロジー系人材や国防省施設があります。それなのに、ネゲヴ砂漠の街ベエルシェバが、“サイバーセキュリティのハブ”に選ばれたのは、周辺国との国境から離れていて、先住民が少ないために人の出入りを管理しやすいという安全保障上の理由からでしょうか?

ハレル:その質問にはこう答えましょう。テルアビブは人口が多く、テック系人材が豊富です。ただ、8200部隊もイスラエルの都市部に拠点を置くなど、都市部に集中しすぎているきらいがあります。そうしたこともあり、経済的にも安全保障の観点からもより多くの都市圏を作る必要性を国として感じていました。
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そして、テルアビブから南へクルマで1時間足らずで着くベエルシェバに、サイバーを軸にまちづくりできるのではないか、という構想が一部から持ち上がったのです。そして当時のネタニヤフ首相をはじめ、イスラエル国家サイバー局(INCB)や大学の関係者が、まずはサイバー関連組織を南部に移し、成熟させられたら、8200部隊などのテクノロジー関連部隊も人材に惹かれて移ってくるのでは、という期待とともに構想を練りました。そのようにして、「サイバー・エコシステム」構想が生まれたのです。

これは、ベエルシェバがテルアビブよりもサイバーの分野で優れている、ということではありません。テルアビブは人口がはるかに多い、重要なテクノロジー・ハブです。ただ、ベエルシェバには着実に優れたサイバー関連の資産が増えており、これに惹かれてサイバー関連部隊や人材が南下するようになれば、この地域にとっても国の未来にとっても極めて大きいでしょう。

実際に“機能”するエコシステム(生態系)を人工的に作るのは簡単ではありません。人材や資本がどれほど集まろうと、なかなかうまくはいかないものです。その点、ベエルシェバには業界、行政、学界がそろい、協業できています。

そこから新たなイニシアチブが生まれています。例えば、金融業界のセキュリティに特化した「Finsec(フィンセック)」領域の研究・開発を進める「Finsec Lab(フィンセック・ラボ)」があります。これは、決済サービス大手「マスターカード」と伊エネルギー大手「エネル」が共同で、銀行や保険会社など金融業界向けに、サイバーセキュリティーやランサムウエア対策、詐欺防止関連の技術開発を進める、ベエルシェバに設置した新しいイノベーション・ラボです。

サイバーセキュリティはかつてのように、中核事業が安定したあとに注力すればいいというものではなく、企業の規模に関係なく、中小企業や個人事業主も含めて意識する必要があるものなのです。会社として目を背けてはいけません。もはや「情報保証」というユーザーの情報管理に限らず、資産やライフラインといった日常生活を危うくしかねないリスクもはらんでいるのです。
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文=井関 庸介

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